まだら模様の新興国通貨 本格持ち直しは24年半ば以降に 対木さおり
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米国の利下げを織り込み、新興国通貨の持ち直しの動きがみられる。しかし地政学リスクや経済の脆弱性によって国ごとに差が出てきている。
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2024年の新興国通貨は、米国の金融政策に揺さぶられる状況が続きながらも、各国の地政学リスクや経済ファンダメンタルズ(基礎的条件)を背景に、国別でまだら模様の展開となるであろう。具体的には、24年の新興国通貨を占うためのポイントは三つある。第一に米国金融政策と世界経済の行方、第二に地政学リスク、第三に経済のファンダメンタルズや脆弱(ぜいじゃく)性である。
第一のポイントとして、最も重要なのは米国金融政策と同国の長期金利の動きだ。過去の米国長期金利と、新興国通貨インデックスの関係性を見る(図1)。米国長期金利が上昇すれば、リスク資産と見なされる新興国通貨は売られ、通貨安となる構造が定着している。
簡易的に、21年以降の米長期金利と新興国通貨の変動の相関関係(決定係数)を見ると、米国が28年ぶりに75ベーシスポイント(0.75%)と歴史的な追加利上げに踏み切る22年6月15日以前は0.43であったのに対して、22年6月15日から直近は0.66と相関の度合いが強まってきたことが分かる。今年はFRB(米連邦準備制度理事会)の数次の利下げが市場では予想されており、これを織り込む形で為替市場ではすでに新興国通貨に持ち直しの動きがみられる。
ただし、新興国通貨の本格的な回復には時間を要すると筆者は考える。今年の米欧中の景気減速の可能性を考慮すると、全体として新興国の景気は輸出を中心に下押しされると見込まれるからだ。景気回復が遅れ気味のアジアを中心に、通貨の本格的な持ち直しは、世界経済の回復が見込める24年半ば以降となるであろう。
持ち直しに時間がかかる中で、新興国通貨の全体の動きだけではなく、国ごとのまだら模様の展開となることから、個別通貨の個々の動きにも目配りが必要な展開になると予想する。個別通貨の動きを見定めるには、第二のポイントの地政学リスクと、第三のポイントの経済ファンダメンタルズや構造的な脆弱性が重要となる。
まず、22年2月のウクライナ侵攻、その後、中東でも情勢が緊迫化しているが、地政学リスクが各国動向において、一段と重要な役割を果たしている。各国通貨のウクライナ侵攻後の騰落率を22年と23年以降に分けてみる(図2)。半導体市況の低迷に加え、中国との地政学リスクも意識されている台湾は、通貨下落幅が大きい。株や債券などの資金流出の面から見ても、国際金融協会(IIF)の資金フローデータでは、台湾は累積で流出超となっている。半導体市況が底打ちの兆しを強める中でも、中国経済の先行きリスクや地政学リスクの根深さから、台湾の通貨下落圧力は残存している。
アルゼンチン新政権の迷走でインフレ率211%
最後の第三のポイントは、図2で明らかな通りトルコやアルゼンチン、南アフリカなどの経済の脆弱性を抱えている国の通貨は、世界経済の先行きに不透明感が残る局面では特に売られやすい状況が続いている。アルゼンチンとトルコは、世界的なインフレ環境が徐々に落ち着きつつある状況とは対照的に、それぞれ物価上昇率が昨年12月で前年比プラス211%、同プラス64%と極めて高い。こうした中、両国の通貨安トレンドは加速しており、22年中の…
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週刊エコノミスト
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