低い実質政策金利こそ「円」の弱点 円高でも1ドル=135円程度か 内田稔
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ドルと円の双方で、ドル安・円高を阻む要因は多い。その背景として、米国の利下げ、日本の金融正常化のいずれも予想されたほどには進まないとみる。
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2024年は日米の金融政策の格差が縮小する結果、大幅なドル安・円高が進むとみられている。しかし、その一方でドル安・円高を阻む要因も多い。
はじめに、ドル安は進みにくいと考えられる。市場の利下げ期待が修正を迫られ、米長期金利やドルに反転余地が生じる可能性が高いからだ。仮に、1度の利下げ幅を0.25%とすると、現在の市場は年内6回もの利下げを見込んでいる。
しかし、昨年12月の失業率は3.7%と低く、求人件数も失業者の約1.4倍にのぼる。消費者物価指数(CPI)の約6割を占めるサービス価格のインフレ率も5%台とまだ高い。住宅価格もじり高に推移しており、今後CPIの約25%を占める帰属家賃の上昇も加わってくる公算が大きい。雇用、物価のいずれも春からの連続利下げを要するほど弱いシグナルを発していない。
また、ユーロ・ドルの下落(ユーロ安・ドル高)もドルを支えよう。米国のインフレがサービス価格にけん引される一方、ユーロ圏のインフレは財(モノ)の影響を受けやすい。このため、資源価格も落ち着きを取り戻す中、インフレの減衰ペースは米国よりもユーロ圏の方が速く、タカ派姿勢を保つ欧州中央銀行(ECB)が緩和姿勢に転じる可能性が高い(図)。そのタイミングで、為替市場最大の出来高を持つユーロ・ドルが下落すれば、おのずとドルが強含むことになる。
円安に押し返される
円についても、大幅かつ持続的な円高が進むとは考えにくい。円の弱点が克服される可能性が低いためだ。
22年以降の主要通貨の強弱は、政策金利からインフレ率を差し引いた実質政策金利に大きく左右されてきた。
例えば最も弱かった円の場合、実質政策金利は22年1月時点のマイナス0.6%(YCC〈長短金利操作〉の短期金利0.1%-総合CPIの前年比0.5%)から23年11月にはマイナス2.9%まで低下した。これが低下したのもいまだにマイナス圏にとどまっているのも円に限られる。円にとって、この低い実質政策金利こそ、貿易赤字をしのぐ最大の弱点だ。
確かに、日銀は今年マイナス金利の解除や追加利上げを模索するとみられるが、年央以降、欧米の利下げも見込まれ、利上げ幅は限られよう。その結果、実質政策金利が大幅なマイナス圏にとどまる可能性が高く、他通貨より低いままとなろう。利上げ当初こそ、円高機運が高まるかもしれないが、時間の経過とともに円安方向に押し返されそうだ。
その上、M&…
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週刊エコノミスト
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