あれから10年 MTGOX元CEOが語る事件の裏側とは 高城泰/編集部
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ビットコインの黎明期に世界の取引シェアの大半を占めたMTGOX(マウントゴックス)。当時のCEOが不正アクセスによる巨額消失事件の裏側などを明かした。
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日本に拠点を置いた暗号資産取引所「MTGOX(マウントゴックス)」が大規模なハッキングを受けたMTGOX事件。2014年2月に表面化し、当時は「仮想通貨」と呼ばれていた暗号資産ビットコインを世に知らしめるきっかけにもなった。あれから10年。当時、MTGOXのCEO(最高経営責任者)を務めていたマルク・カルプレス氏(38)が今年1月、筆者や編集部の取材に応じ、事件の裏側などを語った。
東京都新宿区内のカフェ。カルプレス氏はポロシャツ姿のラフな格好で現れた。カルプレス氏は現在、同区内に本社を置くITシステム開発会社「カルプレス研究所」の社長を務める。「MTGOXの債権者への弁済が昨年末からやっと始まった。とても長い時間がかかってしまったが、弁済が始まったことにより、私も話しやすくなった」と流暢(りゅうちょう)な日本語で取材に応じた意図を説明した。
MTGOX(東京都渋谷区)は21年11月、民事再生計画が確定し、現在は弁済を始めたところだ。民事再生手続き中だった19年10月の資料によれば、債権者数は約2万3000人。民事再生手続き開始が決定した18年6月時点で、MTGOXは現預金約697億円、ビットコインを約14万1600BTC(ビットコインの単位)、ビットコインキャッシュを約14万2800BCH(ビットコインキャッシュの単位)を保有する。
MTGOXは14年2月、不正アクセスを受けて顧客が保有する75万BTCと自社保有分10万BTCが消失したとして、民事再生法の適用を申請して事業継続を断念した。ただ、当時のビットコイン価格は1BTC=数万円にすぎなかったが、現在は640万円前後。MTGOXが保有する約14万1600BTCは、単純計算で時価総額にして9000億円を超える。
また、ビットコインキャッシュも現在、1BCH=約3万5000円程度で取引され、50億円相当の価値がある。民事再生案の立案が困難などとしていったんは破産開始決定を受けたMTGOXだったが、その後のビットコイン価格上昇で債権者に高く配当できる見通しが立ち始める。18年6月には民事再生手続きの開始決定を受け、暗号資産の価格上昇が債権者への高配当を実現する、異例の破綻劇をたどることになった。
サトシ・ナカモトと交流
フランス出身のカルプレス氏。「幼少期から『幽遊白書』など漫画が好きで、日本に興味を持った」という。05、07年と日本へ旅行して「住みたいと確信した」。IT技術者として腕を磨きながら09年6月に来日し、ITサービス会社「ティバーン」を設立する。世界各地に顧客を持って事業をするうち、ある顧客から「ビットコインで決済できないか」と相談を受けた。カルプレス氏とビットコインの出会いだった。
マイニング(採掘)によって最初のビットコインが生まれたのが09年1月だから、カルプレス氏は黎明(れいめい)期から携わっていたことになる。「ビットコインの仕組みに対する技術的な興味」を感じ、ビットコインについての情報をやり取りする100人程度のチャットのコミュニティーにも参加した。そのコミュニティーの中にいた一人が、ビットコインの“生みの親”とされる謎の人物、サトシ・ナカモト氏だ。
「彼がチャットにいる時間は日本時間の深夜が多く、英語がうまい。欧米の人ではないかという印象だ」と振り返る。カルプレス氏はまた、ティバーンの決済手段の一つにビットコインを採用することにした。「当時、1BTCのレートは30セントくらい。パソコンを一晩動かしただけで50BTCもマイニングできたような時代だった。ティバーンは世界で最もBTC決…
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週刊エコノミスト
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