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テクノロジー 最前線! AIの世界

AIは電力を大量消費 日本のインフラは対応できるか 長谷佳明

 国際エネルギー機関(IEA)が2024年1月に公表したリポート「Electricity 2024」よると、世界のデータセンターが消費する電力は、22年の推定460テラワット時(TWh)から、26年には1000TWhへと倍増すると予想している。1000TWhとは、22年に日本国内で消費されたと推定される電力量963.9TWhとほぼ同じで、途方もない量であることがわかる。

 新たなデータセンター設立の需要の多くは、生成AIなどのAI技術が占めると予想される。急増する電力需要への対策が不可欠であるとリポートは述べている。

アマゾンなどが日本で巨額投資

 実際のところ最近、アマゾン、マイクロソフト、オラクルの3社が大型のデータセンター投資を日本国内で行うと発表したことは記憶に新しい。この3社で総投資額は3兆9000億円にのぼる(表)。これらは、生成AIがもたらす新たな市場を狙った巨額投資であることは言うまでもない。

 一方で気になるのは、昨今の日本の電力不足である。天然資源の乏しい日本は、電力の安定供給源の一つとして原子力発電を利用している。しかし東日本大震災以降、廃炉にしたり、安全性対策のため長期間にわたり運転停止したりするなど、不安定な状況が続いている。

 原子力規制委員会の最新の発表(24年4月26日最終更新)では、稼働中の原子炉は関西電力7基、四国電力1基、九州電力3基の11基にとどまっている。23年の酷暑では、老朽化した火力発電所を再稼働したり、揚水発電を活用して電力ひっ迫時に放水して発電したりするなど、あらゆる手を駆使して急場をしのいだ。

消費電力を試算すると……

 表に挙げた3社の投資が完了した際には、どれくらいの電力が新たに必要になるのか。アマゾンはすでに投資済み分が含まれるなど、各社の期間にばらつきがあるが、簡単な前提条件を置いて試算する。

[条件]

・投資額の50%をAIサーバーに投資
・AIサーバーはNVIDIAのDGX H100(GPU×8)で計算
・AIサーバーはリースではなく購入(5000万円=販売会社の価格などを参考に仮定)を想定
・AIサーバーの消費電力はスペックシートに記載された最大「11.3kW」で計算
⇒ 3兆9000億円(3社の総投資額)×0.5(AIサーバーへの投資割合)÷5000万円(AIサーバーの費用)= 3万9000台(AIサーバーの台数)
⇒ 3万9000台(AIサーバーの台数)×11.3kW=44万kW

 AIサーバーが24時間、最大消費電力の状態で稼働することはまれと思われるが、最大で44万kWもの電力がAIサーバーを動かすために必要となる。これは、北海道電力の泊原発1号機(57.9万kW)の発電量に匹敵する。データセンターには、AIサーバー以外にも、ストレージサーバーやネットワーク機器、空調や監視システムなど、さまざまな電力を必要とする機器がある。

AIを使うには大量の電力が必要になる…… Bloomberg
AIを使うには大量の電力が必要になる…… Bloomberg

 NVIDIAは24年3月、新しいGPUとしてコードネームBlackwellを発表した。NVIDIA DGX H100に搭載されている現行世代のGPUが700Wの消費電力であったのに対し、次世代のBlackwellは、1200Wへと約1.7倍に増加するともいわれる。もし、導入されるGPUが新世代に置き換われば、消費電力も増加し、電力はこの試算よりもはるかに多く必要となる。

 また、現在のAIモデルのパラメーター数は、公開されているものだけでもグーグルが開発中のGemini Ultraの1.6兆のようについに「兆」の時代を迎えようとしている。将来的には、成人の脳のシナプスの数(脳神経の接続数)にあたる500兆を目指すとも考えられ、GPUの拡大と合わせ、接続されるAIサーバー数も増加するだろう。中長期のAIの社会への普及を見据え、社会インフラである電力の安定供給の施策は欠かせないのである。

電力がひっ迫するとAI利用価格が上がる?

 マイクロソフトやアマゾンなどのメガクラウドベンダーらが、まるで電気を送るようにAIによる「知的リソース」を届け始めたとき、それは、すなわち大量の電力の消費を意味する。データセンター間で、貴重な電気の奪い合いさえ起こりうる。より高い値付けをした者が電力の供給を受けるならば、それを消費するAIの価格も上昇するなど、AIの価格は需要に応じて変動するだろう。

 少し先の2030年代、AIは今よりも格段に信頼性を増し、頼れるパートナーになっているだろう。しかし、電力がひっ迫するような、うだるような熱い日や、しんしんと凍える寒い夜は、思わず雑用はAIに任せ一休みしたくなっているであろうが、AI利用の価格が高騰しているとすれば、使うかどうかは上司や自らの懐具合との相談になるのかもしれない。

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