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週刊エコノミスト Online 書評

2大取次が本業で赤字 出版流通の危機が深刻化 永江朗

 2大取次の日販(日本出版販売)とトーハンの2023年度決算が発表された。日販は減収減益の赤字決算、トーハンは減収増益の黒字決算ではあるが、両社ともに本業である取次事業は赤字だ。

 日販は「課題とその背景」として、①書店売り上げの減少、②コスト効率の悪化、③運賃の上昇を挙げている。なかでも書店売り上げの減少の背景には、店頭売り上げの減少や書店閉店の加速だけでなく、客数の減少がある。同社のPOSシステム導入店舗約300店の実績で見ると、新型コロナウイルス流行前の2019年を100とした場合、23年は75.6%と大きく減少している。客単価は107.7%に上昇しているものの、到底客数減をカバーできるものではない。消費者の書店離れが急速に進んでいる。

 日本の近代出版流通は取次を中心に動いてきた。毎日発行される雑誌も書籍もコミックも、そのほとんどは出版社から取次を経由して書店に運ばれ、売れ残ったものも取次を経由して書店から出版社に返品される。納品と返品に伴うお金も取次を介して流れる。その取次が出版流通の本業では利益を出せなくなっている。これは深刻に受け止めなければならない事態だろう。取次が成り立たなければ、多くの書店に紙の本は並ばなくなり、出版社の経営も成り立たなくなる。もちろん出版社と直取引している書店はやっていけるかもしれないが。

 いわゆる「町の本屋」の閉店を嘆き、救済を求める声は大きい。しかし、仮に補助金や行政によるなんらかの支援策によって書店が生き延びたとしても、取次が破綻してしまうと消費者に紙の本は渡らなくなる。

 日販のプレスリリースを見ると、返品率は書籍が29.6%、雑誌が47.8%、コミックが30.1%である。書店に配本された書籍・コミックの3分の1、雑誌の半分が売れずに返品されているのだ。現在の流通システムが最善のものではないことはあきらかだ。

 この先も人口が減少し続けるのは確実。社会のデジタル化も進行するだろう。それを前提に出版流通の構造を根本的に変えなければ取次も書店も共倒れになる。


この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年7月2日号掲載

永江朗の出版業界事情 2大大手が本業で赤字、取次の危機が深刻化

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