経済・企業 書評

書店にはいまや負担 出版社からのFAX情報 永江朗

 私事であるが、先日、関東から関西へ転居した。それをきっかけに、固定電話をやめて携帯電話のみにしてみた。FAX機能付きのレーザープリンターは小さなインクジェットプリンターに替えた。考えてみるとこの数年、筆者はFAXを使っていない。編集者との連絡はほとんどがメールで、ゲラ(校正刷り)の確認や修正もメールでやりとりしている。固定電話やFAX機器がなくて困ったことはない。

 すっかり時代遅れになってしまったFAXだが、しかし、書店ではいまだ大活躍中である。出版社からの新刊情報などがFAXで届くからだ。以前訪問したチェーン店の事務所では、店長の机の上に各社から届いたFAXが積み上げられていた。大型書店の場合、1日に100枚以上のFAXが届くという。

 各書店は出版社からのFAX情報をもとに書籍を発注したり、陳列やイベントを考える。見落としや紛失は発注漏れにつながる。だが、FAXでは書店の負担も大きい。大型店の場合は商品のジャンルごとに分類して各担当者がチェックするなど手間がかかるし、用紙やトナーの補充やコストもばかにならない。FAXというのは受信側にも負担を強いるシステムなのだ。

 新聞業界と出版業界の専門紙『文化通信』を発行する文化通信社は、2022年から「デジタルチラシ配信サービス BookLink PRO」を運営している。簡単にいえば、これまでのFAXをデジタル化したもの。出版社には料金がかかるが、受信する書店や図書館は無料だ。パソコンだけでなくスマホでも閲覧できるので、書店や図書館の規模や特性に応じてさまざまなかたちで利用できる。同社は同サービスを導入している書店とともに出版社へのFAX削減要請を進めているが、このほど賛同書店が1700店舗を超えたという。出版社からのFAXが書店にとっていかに負担となっているかを示している。

 経済産業省の書店振興プロジェクトチームがどのようなアイデアを出してくるか注目されている。デジタル化など書店現場の負担を減らすことへの補助ぐらいはあってもいいかもしれない。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載

永江朗の出版業界事情 どうなる? いまだ現役のFAX

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