マンション区分所有者の孤独死が管理組合に強いる重すぎる負担 植田雅人
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独居の区分所有者が死亡した後も、マンションは管理し続けなければならない。新しい所有者が決まるまでの道のりは管理組合にとってあまりに長い。
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住人の孤独死に直面するマンションの管理組合はいまや珍しくなくなった。国土交通省が今年6月に発表したマンション総合調査では、1984年以前に建てられたマンションにおける70歳以上が世帯主の割合は55.9%に上った。高齢単身者の世帯も増加傾向だ。
実際、ここ数年間で筆者が勤務する法律事務所の業務として関わったマンションの相続に絡む二十数件の事案のうち、半数以上が「孤独死」によるものだった。マンションでの孤独死は、残された他の区分所有者たちに、いろいろな負担を残す大きな問題である(図)。
問題の一つに相続人たちの相続放棄がある。民法では相続人がいない不動産は国庫に帰属するとされるが、売却・現金化されてもマンションの部屋自体は存在し続ける。その後もマンションの管理は続くし、管理費も徴収し続けなければならない。
物件の新たな所有者が現れない限りは実質的に“塩漬け状態”となるが、その期間が長いほど滞納金が積み上がる一方、資産価値は下がってしまい、管理もその管理費の回収も困難になる。部屋が放置されればマンションにとって何の得もない。そうした事態になる前に、そしてなった後も、早めの対処が必要だ。
具体的に筆者が対応したケースを紹介したい。1973年築の30戸のマンションで2017年末、区分所有者の孤独死が発見された。子も親もおらず、管理組合が相続人を探すも、たどりついたおいやめいが相続放棄。生前の滞納金はないが、駐車場に車が放置されていた。
管理組合が18年10月、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て。選任された管理人によって区分所有者の所有する車は撤去され、最終的には20年4月に物件も売却された。申し立て時に必要な予納金や死亡後の管理費の滞納金は、物件の売却益などから回収できた。
このケースは比較的スムーズに進行したが、他にも孤独死から売却まで5年以上、相続人捜しなどで30通以上の戸籍謄本を取ったりする手間がかかり、予納金と滞納金合わせて200万円以上かかったにもかかわらず、回収金はその半分以下となってしまったこともある。
物件を売却できればよいが、孤独死の場合は物件の状態自体には問題ないものの住む人に心理的抵抗を与える「心理的瑕疵(かし)」物件として売却が難航することもある。区分所有者の親を見つけても認知症によって判断力が低下していたりし、管理組合が手詰まり状態に陥るケースも珍しくない。
「清算人」選任申し立て
そもそも、区分所有者が孤独死した場合、管理組合はどうしたらいいのか。先を見据えて取り組まないと、時間ばかりが過ぎて滞納金もどんどん増えてしまうため、その手順は確認しておきたい。大きくは「物件」と「相続人」という二つの調査が必要となる。
物件の調査では、最初に物件の登記簿謄本を取得し、名義が死亡した人かどうか、差し押さえや仮差し押さえ、(根)抵当権の設定登記の有無などを確認する必要がある。抵当権などが設定されている場合は、管理組合としてはわざわざ費用を掛けてアクションを起こす必要はない。しばらく静観していれば、債権者が申し立てた競売などによって所有者が代わり、新しい所有者に管理費の滞納分などを請求できるからだ。
抵当権などが設定されていなければ、郵便受けなどに投げ込まれた不動産のチラシや新聞広告などで、自分のマンションの実際の売り出し額なども把握したい。管理組合自身が物件をどうするか検討する上で、相続財産清算人(昨年4月の改正民法施行で相続財産管理人から名称変更)の選任を申し立てるかの判断材料になる。
清算人に物件を売却してもらう場合、申し立てには予納金が必要で、売却額の目安は広告の金額の5割程度になる。申し立てには筆者の経験上、予納金も含めて100万~130万円程度必要となり、売却額は予納金が戻るかどうかの重要な判断材料だ。高経年マンションでは、申し立ての時期を1年遅らせたことで物件価格が下落してしまい、予納金が全額戻らないこともある。
もう一つが、死亡した区分所有者の相続人の調査だ。区分所有者の死亡も改めて戸籍で確認すべきで、相続人も戸籍でしか確認できな…
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週刊エコノミスト
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