案外使える「相続土地国庫帰属制度」 申請条件多くても悲観は禁物 荒井達也
有料記事
相続土地国庫帰属制度が始まって1年以上。相続した“負動産”の処分には有効だが、制度自体に見直しの余地は多い。
>>特集「マンション管理&空き家」はこちら
相続した使わない土地を国が引き取ってくれる相続土地国庫帰属制度が、昨年4月に開始されて1年以上が経過した。法務省の統計(速報値)によると、今年5月31日時点で審査が完了した案件483件のうち、460件が審査に“合格”し、国庫に帰属した(図)。審査の“合格率”は9割超の高水準であり、多くの専門家の予想に反する形となった。まだまだ絶対数は少ないが、「使い勝手が悪い」と悲観する制度ではない。
そもそも、なぜ多くの専門家が国庫帰属制度を厳しい制度と見ていたのだろうか。これには、この制度の利用条件が関係している。すなわち、国庫帰属制度は不要な土地を無条件に引き取る制度ではなく、一定の要件をクリアして初めて引き取りがなされる制度として設計されている。引き取りの条件は、主に①ヒトの条件(利用資格)、②カネの条件(手数料と負担金)、③モノの条件(土地の要件)──がある(以下の表を参照)。
相続土地国庫帰属制度のヒト・カネ・モノの条件
【ヒトの条件】土地を相続した相続人(購入した土地や生前贈与を受けた土地は対象外。共同所有の土地は共同所有者全員で申請する必要)
【カネの条件】審査手数料:土地1筆当たり1万4000円国庫帰属時の負担金:原則20万円市街地の宅地・農地や山林などは面積に応じて算定
【モノの条件】以下に該当しない土地▽建物がある土地▽借地や担保になっている土地▽通路などの近隣住民が利用する土地▽土壌汚染がある土地▽境界が不明確な土地や所有権の帰属などに争いがある土地▽崖地(30度以上の勾配で、高さ5メートル以上、崩落の危険性がある場合)▽車両・樹木などの残置物がある土地▽地下埋設物などがある土地▽公道に接していない袋地など通常の管理・処分に隣人との争訟が必要な土地▽災害や獣害などの危険がある土地や賦課金が発生する土地改良区内の農地
(出所)法務省資料より筆者作成
このようにさまざまな角度から利用条件が設定されていることから、専門家からは「これらの条件をクリアできるのは“キレイな土地”、つまり売れる土地であり、相続した手放したい土地の中で条件を満たすものはごく一部に限られるだろう」という声が少なくなかった。しかし、冒頭に示したとおり、制度開始1年経過後の現状を見る限り、絶対数はまだまだ少ないものの、申請ができれば“合格”の見込みがある制度というところまで来ている。
「“負動産”処分に有効」
愛知県に住む70代の小島和栄さんも、この制度を利用して今年3月に相続した土地の国庫帰属に成功した一人だ。相続した土地は兼業農家だった親が購入した約200平方メートルの農地で、小島さんが2002年に相続したものの、農業用の用水路も通っておらず、…
残り1788文字(全文2988文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める