必読!空き家を“持たない&処分する”ための法的対策 吉口直希
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空き家を所有したまま放置しておくと、さまざまな税務・法律上のリスクを抱えてしまう。そうしたリスクを避けるための対策をまとめた。
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人口が減少するにつれて過疎化が生じるようになり、それに伴い空き家の問題が取り上げられることも増えた。しかし、空き家問題自体は認識しつつも、空き家を所有することによる具体的なデメリットまでは認識していないことも珍しくない。空き家を所有後、不測の損害が生じないためにも、空き家所有のリスクを十分に把握して対策を取る必要がある。
空き家を所有した場合、税務面や法律面、また、近隣住民との関係も含めた管理の負担といったデメリットがある。まず、空き家を所有しているだけで毎年、固定資産税の支払い義務が生じることはいうまでもない。これに加え、今後は2023年の地方税法などの改正に伴い、空き家を所有することによって固定資産税負担が重くなる可能性も出てくる。
これまでも、市区町村から倒壊などの恐れが高い危険・有害な「特定空き家」に該当するとの勧告を受けると、空き家の土地について固定資産税の課税標準額を6分の1に軽減する「住宅用地の特例」が受けられなくなり、固定資産税額が最大6倍となっていた。今回の改正で、放置すれば特定空き家となる恐れのある「管理不全空き家」についても住宅用地の特例が受けられなくなることになった。
このような税務上のコストに加えて、空き家を所有することによる法的コストも生じうる。例えば、空き家の外壁が崩落して通行人にけがをさせた場合、空き家の所有者は民法717条の工作物責任に基づき通行人に生じた損害を賠償する責任が生じる。また、空き家が第三者に不法に占有されてしまうこともあり、筆者の体験した事例でも、所有者の知らないうちに不動産を第三者に占有されてしまったケースがあった。
このようなケースでは、第三者による失火や衛生上の問題が生じうる問題のほか、空き家を処分する段階でも、費用と時間をかけて不法占有者に建物明け渡しを求めなければならないという法的リスクが生じる。
共有持ち分の放棄も
これら税務・法律上のリスクのほか、現実的に近隣住民からのクレームにより対応を迫られる管理の負担も生じる。例えば、空き家周辺の植物が生い茂ったり、立木が越境したりといったケースが考えられる。特に、不動産登記法の改正に伴って今年4月、相続登記が義務化されたことで、近隣住民から空き家の所有者を把握される可能性も高まっており、近隣住民から管理の不備を問われやすくなったといえる。
このように、空き家を所有することのデメリットを挙げると枚挙にいとまがない。そのため、空き家を所有する可能性のある人は、空き家状態とならないよう空き家となる原因を認識した上で、その対策を取る必要が生じる。空き家の取得原因については、国土交通省の「空き家所有者実態調査」(19年)によれば、「相続」が54.6%でトップであり、相続に関連した空き家対策を取ることが有効・適切である。
そこで、相続に伴う対策を挙げると、その一つとして「相続放棄」が挙げられる。空き家を相続してしまっても、相続を知ってから3カ月以内であれば、相続放棄により空き家を所有しないことが可能となる。さらに、昨年4月施行の改正民法によって、空き家を実際に支配している場面でなければ、新たな相続人が空き家の管理を始めるまでの間も、その管理に責任を負うことはなくなった。
二つ目の方法としては、「共有持ち分」の放棄が挙げられる。これにより、他の持ち分権者の同意を得ることなく、空き家の共有関係から離脱することが可能になる。この方法は、相続放棄と異なり相続を知ってから3カ月を経過したとしても利用することが可能である。共有持ち分を放棄するには、他に共有者がいることが必要になるため、最後の共有者がいなくなるまでのいわば“早い者勝ち”になる。
また、持ち分放棄をしてもそれだけでは不動産登記に反映されないため、他の共有者と共同で登記手続きをする必要がある。ただ、他の共有者が任意に協力をしてくれればよいが、そうでない場合は登記をするために裁判をする必要が生じる。特に、固定資産税はその年の1月1日時点の登記名義人に課税されるので、固定資産税の課税を免れたいのであれば、登記の必要性がより高まる。
容…
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週刊エコノミスト
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