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海底ケーブルは情報通信の生命線 陸揚げ地の地方分散で断線リスクの分散を 今村圭/小野真之介

敷設船(右奥)から延びる海底ケーブルを引き揚げる作業員(山形県で2021年)
敷設船(右奥)から延びる海底ケーブルを引き揚げる作業員(山形県で2021年)

 インターネットなどの情報通信インフラは海底に敷設されたケーブルによって支えられているが、災害リスクを抱える。

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 海底には、情報通信を支える重要施設が張り巡らされている。海底ケーブルだ。光ファイバーケーブルによって、海外や国内の離島などをつないでおり、世界には600本以上、140万キロ程度の海底ケーブルがすでに敷設、または計画されている。地球を35周するほどの長さだ。海に囲まれた島国である日本にとって海底ケーブルは特に重要な情報通信インフラであり、我が国の国際通信の約99%は海底ケーブルを使用して伝送されている。

 日本と海外を接続する主要な海底ケーブルの敷設状況を示した(図1)。計画中のものも含めると30本近くが敷設済みまたは敷設予定であり、主に米国およびアジア各国とを接続している。アジア方面は主に香港やシンガポールと接続し、さらにマラッカ海峡を通って中央アジア・中東方面などへ延びていくものもある。その他にも、北極海を経由して日本と北米や北欧を接続するプロジェクトも動き始めている。日本は、地理的に米国とアジア各国の中間に位置していること、周辺国と比較して人口が多く一定程度のユーザーが見込めることなどから、米国とアジアを接続するゲートウエー的役割を果たしている。

 これらの海底ケーブルの日本側は、主に千葉県・房総半島から茨城県北茨城市にかけた太平洋沿岸、および三重県・志摩半島から多く上陸し、地上の各施設に接続されている。その理由は、海底ケーブルを通じて送受信されるデータの多くが、東京都心または大阪都心に立地するデータセンター内のインターネットエクスチェンジ(IX、インターネット相互接続点)を経由するためだ。IXは、複数のデータセンターやプロバイダーをつなぐ施設や、相互接続サービスの提供事業者を指す。

 従来の海底ケーブルは各国の通信事業者が主体となって敷設し、コンテンツ事業者などが通信事業者に使用料を支払って利用していたが、2016年ごろからは米グーグルや米メタといったクラウド事業者なども敷設に参加するケースが出始めた。全世界の海底ケーブルで伝送されるデータの69%は、クラウド事業者などのサービスによるものとされていることからも、(1)通信事業者の敷設を待つのではなく、自らが事業主となって敷設する方がビジネスのスピード感に合う、(2)通信事業者に使用料を支払うよりも、自ら保有する方が経済的に優位──との判断をしたものと考えられる。

 海底ケーブルは深海の過酷な自然環境にも耐えられるように作られているが、地震などによる海底の地形変化によってケーブルが切断されることがある。例えば、22年1月に発生したトンガ沖海底火山の噴火の際は、フィジーと接続されていたトンガで唯一の国際海底ケーブルが切断された。再接続には、海底ケーブル船を調達し、切断部分を特定して再接続する作業が必要で、トンガでは約1カ月間、ネットを利用できなかった。

ネット遮断で経済リスク

 日本でも、東日本大震災の際には、太平洋側の主要な海底ケーブルの大半が切断され、復旧に数カ月かかったとされる。幸い、一部の海底ケーブルが残ったことから、トンガのような甚大な影響は発生しなかったが、もしもインターネットが1カ月も使えない状態が続いていれば、その経済的損失は計り知れなかっただろう。

 なお、世界では海底ケーブルの切断や損傷といった障害が毎年100~200件程度発生しているが、その主な原因は、実は地震などの自然災害ではなく、底引き網やいかりの使用などの人為的活動だ(図2)。漁業…

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