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マーケット・金融 日銀「いばらの出口」

政府が日銀に課した「円安進展阻止しつつ利上げ回避」という難題 田巻一彦

 国債購入額の減額を決めた日銀は、利上げの時期を探る。世界でも例を見ない600兆円に迫る大量の国債を抱えた中央銀行の「金融の正常化」に踏み出すが、その道程は厳しい難路である。

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 日銀が今、37年半ぶりのドル高・円安に直面し、金融政策の岐路を迎えている。その発端は4月26日の会見だった。「基調的な物価上昇率への影響は、無視できる範囲との認識だったのか」と、円安進行の影響力について聞かれた植田和男総裁は「はい」と回答した。

 会見前に1ドル=155円台だったドル・円相場は156円台に上昇(ドル高・円安)。ニューヨーク市場では1ドル=157.79円まで円安が進み、4月29日に160.17円まで円が売り込まれ、政府・日銀によるドル売り・円買い介入となる。

 政府・与党内で「植田総裁の発言が円安に弾みをつけた」と批判がわき上がる中、岸田文雄首相と植田総裁との会談が5月7日に首相官邸で行われた。事情に詳しい関係者によると、岸田首相は円安進展の阻止を日銀に要請しつつ、利上げについては慎重な対応を求めたという。

低迷続く個人消費

 円安進展は輸入物価上昇を起点に食料品やエネルギー価格を押し上げ、消費者の節約志向を誘発して個人消費の停滞を招くという厄介な問題を発生させている。実際、2024年1~3月期の国内総生産(GDP)の個人消費は、08年のリーマン・ショック以来15年ぶりとなる4四半期連続のマイナスとなった。

 政府サイドからは、1~3月期GDPが前期比年率マイナス2.9%と落ち込んで「利上げは適切なのか」と疑問符も投げかけられている。

 他方、大幅な円安進展の背景には日本の実質的な政策金利がマイナス2%台で長期間推移していることがあるとの見方が市場で広く共有され、日銀もそうした市場センチメントは認識している。

 GDPの5割強を占める個人消費を活発化させるには、節約の背後にある円安パワーを弱めることが必要であり、実質政策金利のマイナス幅を縮小させる──という考え方も一つの対処方法になり得るだろう。

 ただ、大規模緩和による政策効果で景気浮揚を目指してきた日銀にとって、上記の考え方は「異論」ということになっているようだ。

 日銀が消費拡大の切り札として位置付けているのが、所得環境の好転だ。連合によると、今年の賃上げ率は5.10%と33年ぶりの高水準となったが、5月の毎月勤労統計では物価高の影響で実質賃金は同1.4%減と26カ月連続のマイナスを記録した。

 7月以降に賃上げの効果がデータ上に表れて実質賃金もプラス化し、消費も拡大基調に移行する──。これが日銀の描く景気回復の道筋。とすれば、市場関係者の一部で期待されている7月利上げは、実質賃金のプラス化を確認するうえで「時期尚早」といえ、0.25%の利上げ実施は早くて9月という見方が日銀内ではささやかれている。

 一方、6月の日銀金融政策決定会合で国債買い入れ額の減額方針が決まり、詳細な計画は7月の決定会合後に公表されることになった。月間6兆円の買い入れ額が2年後には4兆円になるという見方が市場で浮上しているが、足元で進展している円安をにらみつつ、3兆円減額されて着地が3兆円になるという「大幅減額」の可能性もゼロではないだろう。

 円安の加速を避けて利上げもしないというのは、結果として岸田首相の希望にほぼ沿っており、減額計画の公表時期を7月にしたのも「時間を稼ぐ」という戦術だったことをうかがわせる。

風雲急を告げる「政治」

 では、9月以降に利上げを探るとして、いわゆるターミナルレート(利上げの最終到達点)はどのあたりなのか。植田総裁はじめ日銀幹部は会見や国会などで明言していないが、実質政策金利がマイナス2%台という現状は、景気が次第に回復していく過程で緩和効果が強すぎる状況になると多くの日銀関係者が見ており、メジャード(慎重な)ペースでの利上げの可能性をどこかの時点で植田総裁が言及する可能性もある。

 日銀内では、福井俊彦総裁の下で実施した07年2月の0.50%への利上げが当初のめどになるとの見方がある。ただ、長年の超低金利に慣れてきた国内の企業経営者や個人が、借入金利や住宅ローン金利の上昇にどこまで対応できるのか。国債発行残高を膨張させてきた政府が、利払い費の上昇にどこまで耐えられるのかという問題は、歳出圧力を強める与党政治家の動向次第という面もあり、全く予断を許さないだろう。

 日本の中立金利は1%から2%台半ばと試算の幅が広いが、1%と仮定して中立金利まで4回分の利上げを許容できる体…

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週刊エコノミスト

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