日銀の量的引き締めで既に“日本売り”が兆している恐れ 丹治倫敦
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総発行量の半分以上を抱え込んだ国債を減らす局面に入る日銀。その加減次第では、財政問題に発展しかねない。
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日銀は6月の金融政策決定会合で、今後国債買い入れを減額し、減額計画の詳細を7月30~31日の決定会合で決定する方針を決定した。これにより、現状月間6兆円弱の日銀国債購入ペースが、今後は段階的に削減される公算である。
現状、日銀はおおむね償還再投資分程度しか国債を購入していないため、購入額を減額すれば、保有残高も減少していく、いわゆる「量的引き締め(QT)」の局面に入ることとなる。
QTは「逆効果」のリスク
減額の理由について日銀は「金利形成を市場に委ねるため」としているが、この説明には疑問符が付く。日銀が買い入れ額を減額すれば、特に現在のように「減額自体は決まっているが、減額幅は分からない」状態となれば、減額幅についてさまざまな臆測が生まれることになり、かえって市場が不安定化する。
実際、直近の長期金利は日銀の国債買い入れ減額幅をめぐる思惑から上下に振れており、「金利形成が市場に委ねられる」状態とは逆行している。減額を急ぐ日銀の本当の狙いは不明であるが、市場では円安対策の一環という見方が根強い。筆者も、基本的にこの見方に同意している。
一方で、円安対策としてのQTの効果は限定されやすい。確かに、QTによって長期金利が上昇すれば、日米長期金利差の縮小を通じて為替市場に円高圧力をかけ得る。他方で、日米の金利の変動幅を比較した場合、米国サイドの方が圧倒的に大きく、日本サイドの金利変動が日米金利差に与える影響は軽微となりやすい。日銀もこの点は承知のはずであり、どちらかといえば円安対策をしているという「ポーズ」の意味合いが強いだろう。
さらにいえば、QTは加減を間違えれば逆に円安を加速させかねない政策でもある。日銀が保有国債を減らす以上、当然民間部門で代わりに国債を消化する必要があるが、ここで民間の需要が不十分であれば、国債の消化不安ひいては日本の財政の持続性への疑問につながり得る。一度そのような状態になれば、国債だけでなく日本の幅広い資産から資金が逃避する、いわゆる「日本売り」の状態となり、円安もさらに進行する可能性がある。
国債消化構造の落とし穴
このような状態は、新興国でしばしば発生するが、先進国でも例えば2022年の英国ではトラス新政権(当時)の財政拡張政策をきっかけに財政への懸念が強まり、英国債を含む幅広い英資産とポンドが売られる事態が発生している。
それでは、日本国債は民間で十分に消化しきれるのか。現状の国債の保有者を確…
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週刊エコノミスト
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