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法務・税務 捜査・冤罪

鹿児島県警が内部文書で事件記録の廃棄を促したのは“権限濫用”の極み 指宿信

①インターネットメディア「ニュースサイト ハンター」のホームページより。傍線は筆者
①インターネットメディア「ニュースサイト ハンター」のホームページより。傍線は筆者

 捜査機関が集めた証拠に被告人の無罪をうかがわせる情報が含まれる可能性は否定できない。証拠に関する考え方や扱いのルール、アクセス方法を整えるべきだ。

真実発見の「公共財」意識が欠如

 九州のブロック紙『西日本新聞』が今年6月8日、鹿児島県警が内部文書において、事件記録をすべて保管せず適宜廃棄するよう指示していると報じた。再審請求で、それまで検察に送っていなかった書類が法廷に出て再審開始に有利となったケースを念頭に「再審や国賠(国家賠償)請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」と説明されていたのだ(写真①)。

 内部文書は県警刑事課が昨年10月2日付で作成したものだ。文書の存在は昨秋にインターネットメディアが報じた。西日本新聞の報道後、警察庁を管理する国家公安委員会の松村祥史委員長も文書の存在を記者会見で認め、文書発出は公的にも確認された。

 文書が具体的ケースとして想定したと考えられるのは、2020年に再審無罪となった湖東記念病院(呼吸器)事件だ。滋賀県の病院で入院患者を殺害したとして12年間の服役後に元看護助手の女性が起こした再審請求で、検察に送られていなかった警察の捜査書類の存在が判明し、検視した医師が患者の病死・自然死の可能性に言及していたことが明らかになったのだ。大津地裁は再審無罪の判決言い渡し後、「捜査書類が(最初から)検察に送られていれば、起訴はなかった可能性すらある」と、異例の説諭を行った。

 現在、女性は国家賠償訴訟を起こし、今年5月には問題の捜査報告書を検察に送らなかった捜査責任者(当時)の証人尋問が地裁であった。だが、当時の捜査責任者は判断に誤りがあったとは認めず、「(文書は)メモ的な扱い」「(殺人という起訴罪名と)文書は無関係と思った」と責任回避の証言を繰り返した。

 患者の病死という再審で明らかになった真実を発見するための珠玉の証拠となるはずだった捜査報告書。この隠蔽(いんぺい)に、滋賀県警は反省も謝罪も示していない。県警は再審無罪判決を否定するような書面も国賠訴訟で提出しており、県警本部長がその後、「表現に不適切な点があった」と県議会で答弁を余儀なくされた。しかし、本部長は重要な証拠となる報告書が未送致だった点は「訴訟進行中」として説明を回避している。

 鹿児島県警の内部文書は滋賀県で起きた再審無罪事件とその後の国賠訴訟の経緯を踏まえ、同じ事態が起きないよう発出されたと考えられる。犯してもいない殺人事件で12年もの月日を奪われた女性の人生を、いったいどう考えているのだろうか。

郵便不正事件の記憶

 内部文書の存在を知った時、筆者の脳裏に浮かんだのは、検察が捜査を担った「郵便不正事件」(10年9月無罪判決・検察控訴断念確定)だった。なぜか。検事による証拠改ざんという前代未聞のスキャンダルが発覚したことで知られる事件だが、取り調べの際に検事が作成したメモがすべて廃棄されていたことも明るみに出た。県警の内部文書が促す廃棄が実際に起きていたのだ。

 当時の検事は「関係者のプライバシー」などを廃棄理由としていたが、最高裁判所の判例では取り調べ時のメモは「公文書に準じる」扱いと位置づけられ、弁護側が求めた証拠開示の対象に含まれると解釈されている。ところが、最高検察庁は現場の検事に対し「必要性のない取り調べメモについては速やかに廃棄することが求められる」(最高検刑事部長発出07年7月9日通知・補足説明)とか「捜査の秘密の保持や関係者の名誉及びプライバシー保護の観点から、安易に保管を継続することな…

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