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対談:袴田事件「再審は証拠開示が進んだ事件がほとんど」指宿信・成城大学法学部教授×村山浩昭・弁護士
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再審となったいわゆる袴田事件は、9月に判決が言い渡される。刑事訴訟法が専門の指宿信・成城大学教授と、2014年に静岡地裁で再審開始決定(23年に確定)を出した際の裁判長、村山浩昭弁護士が7月1日、成城大学(東京都)で開かれた生涯学習向け講座「成城 学びの森」で、再審制度をめぐり対談した。(構成=荒木涼子・編集部)
1980年代の刑事司法は「絶望的」
指宿 村山さんが任官された1980年代、確定死刑囚が再審で無罪判決を言い渡される事件が4件続けてあった。法曹界では刑事弁護の関心が高まっていたころだ。
村山 死刑再審の4事件は特殊事例で、少数精鋭の弁護士が手弁当でやっていたイメージだった。一方、刑事弁護人の裾野は広がっていなかった。司法制度改革が進み、特に取り調べ中の録音録画も始まり、若い弁護士たちが刑事弁護に力を入れてくれるようになった。
指宿 80年代の日本の刑事司法は、刑事法の権威、元東京大学総長の故平野龍一さんが「わが国の刑事裁判はかなり絶望的」と論文で述べるほどのありさまだった。
村山 当時の裁判は捜査段階に作られた書類をひたすら裁判官が読み、証拠を追認するような場だった。証拠開示もなく、弁護人が想像力を働かせ、自分の足で調べないと有罪を崩せない状況だった。
指宿 裁判員裁判が導入されたのは2007年。その経験も踏まえ、12年に袴田事件の再審請求審の裁判長になった際、最初に確定判決を読んだときの感想は。
村山 個人的感想だが、非常に驚いた。判決文の前半は、逮捕された袴田巌さんの自白調書について(45通ある調書のうち)1通を除いて証拠から排除する理由や、調書を作成した際の取り調べの問題点について、相当な量を割いて書いている。ところが結論は死刑。後段で有罪の理由が述べられているが、非常にバランスが悪く、経験のある裁判官が読めば、(事件を担当した3人の裁判官の中で)結論が割れていたのではないかと想像できるような内容だった。
指宿 自白についての問題意識はどの程度あったのか。
村山 虚偽自白は冤罪(えんざい)の最大の原因だと思う。捜査機関が強大な権力を持ち、取り調べの中で自白を迫るとき、虚偽自白が起こり得る。袴田さんの事件については、正直、自白が「えっ?」と思うほどめちゃくちゃな内容だった。
分かれた「釈放」是非
指宿 袴田事件では、自白で「パジャマ」だった犯行着衣が公判中、事件現場近く…
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週刊エコノミスト
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