法務・税務 冤罪
プレサンス事件で無罪確定の元社長が国賠訴訟 担当検事が証人尋問で語った言葉とは 粟野仁雄
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日本の民事裁判史上で初めて、検察特捜部の取り調べ映像が証拠として法廷で再生された。
大阪地検特捜部は郵便不正事件から教訓を得ていないのか
6月11日、大阪地裁──。証人として出廷した検察官4人を原告側弁護士が尋問したほか、そのうち1人が2019年に容疑者を取り調べた際の録画が法廷で再生された。
大阪地検特捜部は同年、マンション販売会社プレサンスコーポレーション(大阪市)の山岸忍社長(61=肩書は当時、以下同じ)や部下のA(59)を業務上横領の疑いで逮捕・起訴した(Aはのち同罪で有罪判決が確定)。その際、検察官が違法な取り調べをしたとして、山岸氏が22年3月、国を相手に賠償を求める民事訴訟を提起していた。
山岸氏は248日間の勾留を経て、21年に無罪判決を受けた。大阪地検は控訴せず、判決は確定している。プレサンスは事件前の13年、東証1部に上場市場を変更しており、現在は東証スタンダード市場に上場している。
事件は岡山県の実業家女性B(65)が16年、山岸氏から18億円を借り入れたことに端を発する。Bは借りた金を使って大阪府熊取町の学校法人明浄学院(現学校法人大阪観光大学)の理事を買収し、副理事長に就任。翌年、理事長に昇格して経営権を掌握した。その後、明浄学院は当時運営していた大阪市の高校の土地を不動産会社に売却する契約を結び、手付金21億円を得た。Bは明浄学院の理事会に諮らずに手付金を使って借金を返済した。
特捜部は19年12月、Bが「明浄学院の土地を勝手に売却し、手付金を私的に流用した」などとして業務上横領の疑いで逮捕した(のち同罪で実刑判決が確定)。山岸氏は特捜部の取り調べを受けた際、Bが明浄学院の金を横領する意図をもっていたことは知らなかった旨、供述した。
「あなたは大罪人ですよ」
だが、特捜部は山岸氏がうそをついていると見立てた。Bの意図を知りながらBに金を貸したことから、業務上横領の共犯というわけだ。そこで、Aを取り調べた際、見立てに沿う供述を迫った。田渕大輔検事(現東京高検)がAを取り調べた際の録画が今年6月11日、大阪地裁の法廷で流れた。
「あなたはプレサンスをおとしめた大罪人ですよ。会社(プレサンス)から『今回の風評被害を受けて非常に大きな営業損害を受けた』とかになって(損害賠償を請求された場合)、賠償できますか。10億や20億では済まないですよね。それを背負う覚悟で話していますか」
Aは次第に「背負えません」と弱気な口調になった。山岸氏の代理人、秋田真志弁護士によれば、山岸氏の代理人弁護団が入手した録画には、田渕検事が「検察なめんなよ」と大声で迫り、机をたたいた様子が映っていたという。しかし、大阪地裁が法廷での再生を認めたのは、大阪高裁が48分に短縮した検察提出の映像のうち5分程度だった。
秋田弁護士による反対尋問に田渕検事は「(Aが)不自然な話をしており、自分の言葉の重みを実感してほしかった」などと抗弁。机をたたいたことは「不穏当だった。全く非がないとは言わない」と認めた。西愛礼弁護士が「山岸さんは今も有罪と思っていますか」と聞くと、「答えることができない」と逃げた。
中村和洋弁護士は山口智子検事(現大阪高検兼大阪地検)にも尋問した。山岸氏の著書『負けへんで』(文芸春秋)によると、山口検事は19年10月19日の取り調べの際、「社長、いらっしゃーい」と親し気に語って山岸氏を検事室に迎え入れた。また、山岸氏と同じ同志社大学の卒業生と明かし、親身になっているかのように装ったという。山口検事は立件に有利な供述をたくみに引き出した後、逮捕状を手にして「社長、こんなん出てしもたやんかぁ。どうする?」と大げさに嘆いた一幕もあった。
中村弁護士の尋問に山口検事は「山岸社長とは真摯(しんし)に向き合っていた」「(取り調べの際)誠実に話した」と答え…
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週刊エコノミスト
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