法務・税務 紅麹死亡問題
日本には健康食品の安全性を保証する法律がない 小島正美
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小林製薬(本社・大阪市)の機能性表示食品「紅麹(べにこうじ)」サプリメントによる死亡問題は、健康食品制度の課題を示した。
全サプリにGMP義務化を
紅麹サプリメントによる健康被害の続出は健康食品業界に激震を与えた。サプリメントの製造・品質管理に問題があったことから、国は厳しい品質管理基準のGMP(適正製造規範、Good Manufacturing Practiceの略)の順守や健康被害情報の迅速な報告を法律で義務づける方針だが、サプリメント全体の安全性を確保する措置は置き去りのままだ。消費者の信頼を得るために何が必要なのだろうか。
小林製薬の紅麹サプリ事件が発覚したのは2024年3月22日。同社が製造販売する紅麹成分を含む機能性表示食品のサプリメントを摂取した人に腎臓障害などの健康被害が多数あったことが記者会見で明らかになった。
問題点は主に二つある。一つは1月に被害を把握していながら国への報告に約2カ月もかかり、3月の記者会見でようやくサプリメントの自主回収を公表するなど、ずさんな企業統治(コーポレートガバナンス)が露呈したことだ。当初、死者は5人と発表されたが、6月28日、新たに76人の死亡の疑いが公表されるなど情報隠しの体質まで問われる事態となった。小林一雅会長と小林章浩社長が辞任したのは当然だろう。
もう一つは、安全性を確保する品質管理の甘さだ。製品から青カビがつくるプベルル酸など複数の化合物(異物)が検出されたが、外部の弁護士3人で構成する「事実検証委員会」が7月下旬に公表した調査結果では、品質管理担当者は紅麹を培養するタンク内に「青カビが付着していた」と認識しながら、放置していたことが分かった。
小林製薬は「製薬」と名がつくが、医薬品を製造したことはない。人の健康に影響するサプリメントを製造・販売するからには、最終製品と原材料をつくる工場でGMPを順守することが必要だが、原材料をつくる工場では実行されていなかった。
米国にはサプリ法
今回の事件が起きた背景には、日本の健康食品には医薬品と違い、そもそも安全性を保証する法律がないことが挙げられる。米国にはサプリメント法があり、すべてのサプリメントを対象に安全性を確保するGMPの順守を事業者に法律で義務づけている。米国では国の査察官による工場の立ち入り検査もある。
これに対し、日本では厚生労働省がGMPの順守を促すガイドライン(05年)をつくったものの、法律による義務づけはなく、事業者任せになっていた。もし日本でもサプリメントメーカーにGMPの順守を法律で義務づけていれば、今回の事件は未然に防げたという専門家の指摘もあるほどだ。
日本でのGMPは、「日本健康食品認証制度協議会」(信川益明理事長)が日本健康・栄養食品協会と日本健康食品規格協会の2団体をGMP認証機関として指定し、GMP認証の普及に取り組んできた。しかし、認証・監査のあり方をめぐって、指導監督する立場の同協議会と認証機関の両団体が対立し、23年3月と6月、両団体は同協議会から離脱、認証機関ではなくなっていた。こうしたGMP認証への信頼性が揺らぐ中で今度の事件が起きてしまった。
今回の事件を受けて、消費者庁は24年4月、機能性表示食品の制度改善を目指し、識者で「機能性表示食品を巡る検討会」を発足させた。6回の会合を重ね、5月下旬に報告書をまとめた。
これを受け、国は機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)を対象にGMPの順守を法律で義務づけ、健康被害情報の報告義務も課すことを決めた。
一歩前進とはいえ、機能性表示食品やトクホでもな…
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週刊エコノミスト
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