法務・税務 年金

年金の基本は「老後の貧困回避の所得保障」である 田中秀明

財政検証に向けて議論する社会保障審議会年金部会の委員ら(東京都千代田区で2024年4月)
財政検証に向けて議論する社会保障審議会年金部会の委員ら(東京都千代田区で2024年4月)

 多くの国民にとって老後生活資金の柱となる年金。2024年は、04年に始まった5年に1度の財政検証が行われ、その結果が7月に公表された。少子高齢化が進む中、最も経済成長率が低いケースでも所得代替率(出生率や経済成長率など一定の想定下での平均的な現役労働者の可処分所得で割った数値)が50%を確保されるという検証結果だったが、本当に信用できるのだろうか。わかりにくい制度と併せて解説する。

日本は「基礎年金+厚生年金+企業年金」の3階建てではない

 年金制度は老後において貧困に陥らないように妥当な所得を保障することを目的としている(若い場合でも受給できる障害年金などもある)。多くの種類があり、公的・私的、再分配を重視するもの(財源は税金)や保険原理に基づくもの(負担した保険料に基づき給付額を算定)、積み立て方式(銀行預金のように資金を積み立てて老後に受給する)や賦課方式(その時の現役世代が負担した保険料を高齢者の年金に充当する)、給付建て(給付額を先に決めて、それに必要な保険料を調整する)や拠出建て(負担する保険料を先に決めて、その範囲内で給付を調整する)などがある。

 国際労働機関(ILO)は多様なリスクに対応するため、異なる複数の年金制度を組み合わせること。具体的には、1階(強制・再分配重視)、2階(強制・保険重視)、3階(任意)という3階建て制度を推奨している。その内容は国により異なり、1階は基礎年金や社会扶助で対応する場合、2階は公的保険あるいは強制的な私的保険で対応する場合などがある。

 多くの国で公的年金は最初に積み立て方式で導入されるが、インフレなどで維持できなくなり、賦課方式に移行する。日本の年金は一定の積立金も有しているため、修正賦課方式ともいわれている。また給付建ての場合、少子高齢化が進むと、現役世代の負担が重くなるため拠出建てに移行する国も見られる(その場合でも賦課か積み立て方式かの相違がある)。

少子高齢化への対応

 現在の公的年金制度には、国民年金と厚生年金がある(従来公務員が加入する共済年金が存在したが、1997年に厚生年金に統合された)。国民年金は主に自営業者や非正規雇用が加入し(20~60歳の間保険料負担)、厚生年金は被用者が加入する(会社員や公務員で、従業員数や月額賃金などの対象要件があり、加入開始年齢に制限はないが70歳到達まで加入可能)。

 国民年金の保険料は原則1人月額1万6980円の定額であり、40年間保険料を納めた場合の満額の年金月額は6.8万円の定額である(2024年度)。厚生年金の保険料率は18.3%(労使折半)であり、給付は基礎年金部分(定額)と報酬比例部分(現役時の報酬と加入期間に基づき算定)からなり、男性片働き夫婦世帯(平均賃金で40年間就労した場合)の標準的な年金額は月額23万円(2人分の基礎年金13.6万円+報酬比例9.4万円)である(24年度)。

 日本の年金制度は、国民共通の1階部分である基礎年金と2階の厚生年金、さらに企業年金などの「3階建て」になっていると説明されているが(厚生労働省資料)、事実ではない。「基礎…

残り1552文字(全文2852文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

9月24日・10月1日合併号

NISAの見直し術14 長期・分散・積み立てが原則 「金融リテラシー」を高めよう■荒木涼子16 強気 「植田ショック」から始まる大相場 日経平均は年末4万5000円へ■武者陵司18 大恐慌も 世界経済はバブルの最終局面へ  実体経済”に投資せよ■澤上篤人20 中長期目線 「金利ある世界」で潮目変化  [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事