マーケット・金融 歴史に学ぶ世界経済

底堅い米国経済 「逆イールド解消後に景気後退」のジンクス破るか 高橋尚太郎

逆イールドが急速に解消に向かうが……(ニューヨークのタイムズスクエア、2024年8月) Bloomberg
逆イールドが急速に解消に向かうが……(ニューヨークのタイムズスクエア、2024年8月) Bloomberg

 世界最大の経済大国、米国が景気後退に陥ると、日本も過去、たびたび景気後退に見舞われてきた。現在の米国経済の状況は──。

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 米国では今、短中期金利が長期金利を上回る「逆イールド」の状況が急速に解消に向かっている。インフレ鈍化が着実に進むもと、雇用情勢に陰りが見え始めていることで、米連邦準備制度理事会(FRB)が今年9月に大幅利下げを決定し、先行きも利下げを進めることを示唆したことが背景である。

 この結果、先行きの政策金利を反映しやすい米2年国債利回りが大幅に低下し、2年超ぶりに10年国債利回りを下回った。今後さらに利下げが進めば、3カ月の金利もそれに応じて低下し、10年国債利回りを下回ることになろう。

 実は、米国経済は過去、逆イールドが解消した直後のほとんどのケースで、リセッション(景気後退)に陥ってきたというジンクスがある。1970年以降を振り返ると、①73年(第1次オイルショック)、②80〜81年ごろ(第2次オイルショック、ボルカーFRB議長による金融引き締め)、③90年ごろ(湾岸戦争)、④2001年ごろ(ITバブル崩壊)、⑤08年ごろ(リーマン・ショック)、⑥20年ごろ(コロナショック)の、六つの事例が該当する(図1)。

 そして、米国がリセッションに陥った後はほとんどの場合、日本もリセッションに陥り、世界経済の成長率は大幅に低下してきた。米国が世界最大の経済大国であり、世界経済とのつながりの深さを考えれば当然といえよう。

 ただ、改めて「逆イールド」という現象を考えると、利上げ局面には自然に起こり得るものといえる。すなわち、高インフレに対応するためには、多くの場合は需要を抑制しうる水準まで利上げが必要となり、短期金利も大幅に上昇する。これに対して、長期金利は、高い政策金利が先行き数年間維持されると予想されない限りは、短期金利より低くなり、結果として逆イールドが生じる可能性が高いからである。

二つのパターンに大別

 そして、これが巻き戻される利下げ局面では、逆イールドは解消に向かう。逆イールドの発生と解消がリセッションの予兆になってきたことは、逆イールドの現象そのものよりは、大幅な利上げが必要な高インフレへの対応の難しさを意味しているといえよう。それでは、前記の六つの事例の際に、米経済はどのような状況にあったのか。これを確認すると、大きく二つのパターンに分けられる。

 一つ目は、ボルカーFRB議長(当時)が果敢に金融引き締めを進めた、②80〜81年ごろである。当時は第2次オイルショックという供給制約が発生し、たび重なる原油価格の上昇に見舞われていた。そうした中で、米国民が見込む先行きのインフレ率(予想インフレ率)が大幅に上昇し、物価と賃金上昇が同時に加速する賃金インフレが発生した。この状況を打破するために、政策的にリセッション…

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