進化と成長の半導体ビジネス 集積度向上で新業態も出現 津田建二
有料記事
2000年ごろの日本では「半導体産業は終わりだ」という見方が広がっていたが、半導体市場はその後、驚異的に発展した。技術や市場の行方を見誤ったにすぎない。
>>特集「歴史に学ぶ世界経済」はこちら
第二次世界大戦が終結して間もない1947年、米ベル研究所の研究者が世界で初めて、電気信号を増幅する電子機器の動作を確認した。のちに「トランジスタ」と命名され、半導体を構成する電子部品の主役となった。やがてトランジスタや他の部品を数多く組み込んだ集積回路(IC)が誕生し、トランジスタの集積度は年々、高まった。
65年には、のちに米半導体大手インテルを創業するゴードン・ムーア(故人)が「ICに集積するトランジスタの数は年率2倍で増えていく」と論文に記し、「ムーアの法則」と呼ばれるようになった。実際、ムーアの法則の通りに集積度は高まった(図1)。この間、集積度が高まるペースは年率2倍から24カ月に2倍とやや下がったものの、集積度が高まる方向は今後も変わりそうもない。
なぜか。集積度が高まる理由は、トランジスタ1個当たりのコストが下がり、システムコスト(半導体を基板に組み込むために要するコスト)が下がるからだ。集積度の向上でシステムの性能や機能が高まるとともに消費電力が下がり、信頼性が増す。これが半導体ICの最大の特長である。
現在、トランジスタ1個のコストを無視できるほど集積度は高まっている。例えば、20億個以上のトランジスタが集積する2ギガビットのDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の価格は数百円でしかない。
DRAMの単価を高めの1000円としても、トランジスタ1個の価格は0.0000005円にすぎない。20億個のトランジスタを集積したロジック製品やプロセッサー(演算処理装置)という半導体の価格は1万円程度だ。トランジスタ1個の価格は0.000005円と極端に安い。
「微細化」は限界近くに
なぜこれほどまで集積度を上げやすく、トランジスタの単価を安くできるのか。現在主流のCMOS(相補型金属酸化膜半導体)回路では、トランジスタ1個を小さくすればするほど集積度が上がり、性能も機能も信頼性も消費電力も改善する。このため、半導体の微細化が進んだ。
ただ、「ムーアの法則=微細化」と捉える人は、「半導体の微細化は終わった」という意味で「ムーアの法則は終わった」と主張してきた。実際、半導体受託製造の最大手、台湾積体電路製造(TSMC)は回路線幅を3ナノメートル(ナノは10億分の1)まで微細化し、現在は2ナノ品を開発中としている。
ただ、3ナノ品といっても、実際には配線幅や間隔の最小寸法は12~13ナノメートルで止まっている。これ以下の微細化はそう簡単には実現できない。半導体製造に使う露光装置から出る光の波長は13.5ナノメートルが限界だからだ。もちろん、光を出すパターン、光源、装置の開口数などを改良することで、波長以下のパターンも加工できるが、それも限界に近い。
2000年ごろの日本では「半導体産業はもう終わりだ」という人が少なからずいた。実際には、それ以降も半導体産業は驚異的な発展を遂げたのは周知の通りだ。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、世界の半導体市場規模は99年の1494億ドル(現在のレートで約22兆円)から10年の2983億ドル、20年の4404億ドルへと約20年間で3倍に膨らんだ。今年の推計は6112億ドルだ(図2)。市場調査会社の中には30年に1兆ドルに達すると予測するところもある。
00年ごろの日本では「微細化が限界に達すると半導体は終わる」という主張があった。業績が悪い総合電機の経営者は一様に「半導体事業が悪いから」と半導体事業を悪者扱いしていた。結果的には、彼らは世界の潮流を捉えられず、半導体の未来を見通せなかったにすぎない。21世紀に入っても世界の半導体市場は発展したが、日本のメーカーの技術は止まったというべきだ。
「先端パッケージング」へ
半導体の未来は今後も明るい。半導体のトップ企業、米エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は「微細化は止まった」と繰り返し述べてきたが、コンピューターの高い処理能力を求めるユーザーの要求は増す一方だとも発言している。
では、どのようにコンピューターの能力は上…
残り1834文字(全文3634文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める