週刊エコノミスト Online 日立・ソニー・パナソニック復権の道のり
長引くパナソニックの大企業病 処方箋はどこに 大河原克行
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就任から3年。楠見雄規社長CEOは「あしき風土」を打破し、グループのリソースを生かせるのか。真価が問われる。
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パナソニックグループの業績回復に力強さがない。2024年3月期(23年度)連結業績では、最終利益で過去最高を更新し、24年度も売上高、調整後営業利益で増収増益を見込んでいるが、実態を見ると、最高益は米国インフレ抑制法(IRA)の補助金と傘下の液晶会社の解散に伴う特別利益を計上したことが影響したものだ。IRA補助金を除いた調整後営業利益率は3.5%にとどまり、ソニーグループや日立製作所との差は歴然だ。
24年度を最終年度とする中期計画で掲げた累積営業キャッシュフロー2兆円、累積営業利益1兆5000億円、株主資本利益率(ROE)10%以上の三つの目標(表1)も、累積営業キャッシュフロー以外は未達になることをすでに公表している。
「危機的状況と言わざるを得ない」と、パナソニックホールディングス(HD)の楠見雄規社長CEO(最高経営責任者)は、いまの状況を表現する。
21年4月にCEOに就任し、22年4月には事業会社制を導入。最初の2年間は、事業会社主導で競争力強化を徹底した上で、3年目にはホールディングス主導で事業ポートフォリオの見直しに着手しながら、成長フェーズに向けてギアチェンジするシナリオを描いていた。だが、その成果は、事業ごとに温度差が生まれるまだら模様となり、グループ全体でも成長フェーズに転じたとは言い難い業績となっている。「3年間を経て、危機的状況という言葉を使わざるを得なかったのは、とても悔しい思いだ」(楠見氏)
「危機的」の意味には、中期計画の未達や、冷暖房機器などの「空質空調」、車載電池、サプライチェーンマネジメント(SCM)ソフトウエアの三つの成長領域において結果を出せていないこと、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの状況が続いていることもあるが、楠見氏が最大の課題に挙げたのは、パナソニックグループのあしき風土が変わっていない点だ。その一例が上意下達の文化だ。
「パナソニックグループは30年間成長していない。その間、業績が厳しいなかから脱却するために、上からさまざまな指示が飛び、現場はそれをやることが仕事だと思い込んだ。30年間、そのやり方で育ってきた社員が、いまは部長や事業部長になり、そのままの仕事のやり方をしている。自分で知恵を出し、創意工夫することができていない」(楠見氏)
かつての中期計画では、事業継続の基準に営業利益率5%を掲げたことがあったが、事業部門では5%に到達することが目標となり、達成すれば競合他社よりも低い水準であったとしても満足してしまう状況が続いた。しかも、すでに終了した中期計画の目標であるにもかかわらず、いまでも5%という数字が、目標値として普通に用いられているという。楠見氏は「上が言ったことを目的化してしまう『病気』が、グループ内に蔓延(まんえん)している」と指摘する。
「看板」の家電が停滞
パナソニックのブランドを聞いて、多くの日本人が想起するのが、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電だろう。白物家電事業を担う「くらしアプライアンス社」の売上高は23年度実績で8887億円と、グループ全体からみると構成比は約1割に過ぎないが、いまでも「顔」としての役割を担う。
そして、長年にわたり、中心的な役割を果たしてきた事業だけに、良くも悪くも、パナソニックの文化の源泉であることも明らかだ。パナソニックが変わるには、白物家電事業の文化を変えることこそが近道といえるのだ…
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