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週刊エコノミスト Online 日立・ソニー・パナソニック復権の道のり

日立とソニーは「両利きの組織」だった 日立の“製造業×IT”に希少価値 長内厚

日立の復活の背景には、川村隆社長ら歴代トップの社内外への粘り強い情報発信があった(2009年、新社長に就任した川村隆氏〈当時〉) Bloomberg
日立の復活の背景には、川村隆社長ら歴代トップの社内外への粘り強い情報発信があった(2009年、新社長に就任した川村隆氏〈当時〉) Bloomberg

 日立とソニーは既存事業を「活用」しつつ、新たな事業の「探索」を進めたことで、世界的な優良企業に返り咲いた。

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 かつて日本の家電量販店には十数社の家電ブランドが並んでいたように、日本には金太郎あめのように似通った事業を営む総合電機メーカーが多数存在した。当時、エレクトロニクス産業はそこそこの事業規模があれば十分に収益が得られた。だが、2000年代以降のデジタル化の進展によって、技術の標準化、モジュラー化が進展した。規模の経済性を利かせたトップ企業が利益を総取りするようなビジネス構造に転換し、日本の電機各社は経営不振にあえいだ。そうした中、各社が自らの強みを再認識し、自社の強い環境と資源の中で事業を再編する動きが進んだ。日立製作所とソニーグループはそうした企業の中の成功例といってよいだろう。

 日立とソニー、事業内容は大きく異なるが共通する点が三つある。ひとつは大きく変革することを恐れなかったことである。もうひとつは、自社の強みに集中して全社を統合したこと、最後は、既存事業とグローバル事業を大切にしていることである。

 ソニーは、「らしさが失われた」と揶揄(やゆ)されながらもエンターテインメント事業中心の事業に転換し、祖業のエレクトロニクス事業も含めて「感動」をキーワードに全社の方向性をひとつに統合していった。その過程で事業の選択と集中は行ったものの、既存の事業の強みをグローバルで生かし一定の規模を追求することも諦めなかった。

 日立も同様である。製造業の強みを生かしたIT企業という自社の強みを明確にした。事業の再編では自社のITプラットフォームである「ルマーダ」につながる事業は残し、そうでない事業は売却をすることで全社の事業の方向性を明確にした(表)。さらに既存事業でグローバルな売り上げが大きいこともソニーと似ている。

両利きの肝は「活用」

 日立とソニーの相似は偶然ではない。既存の能力や事業の「活用」と新たな事業の「探索」のバランスが整っている。いわゆる米ハーバードビジネススクールのマイケル・タッシュマン教授と、米スタンフォード大のチャールズ・オライリー教授が唱える「両利きの組織」のメカニズムが働いていることが両社の好業績につながっているといえそうだ。

 タービュラント(乱気流)な経営環境に直面したときには、新たな事業の方向性を探索することが重要だ。従来とは非連続な新たなチャレンジを恐れない経営が探索には求められる。しかし、全てが非連続に変化すればよいということでもない。非連続性はこれまでにない新たな事業の能力の構築には有用であるが、大企業としての既存の強みを捨てることにもつながるからだ。だからこそ、両利きの組織においては探索だけでなく活用が重要となる。

 両利きの組織の議論のベースにはハーバードビジネススクールの…

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