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日本での自動運転実用化に不可欠なITSとは? 橋爪一仁
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自動運転の技術はおおよそ確立しているが、事故発生時の責任などがハードルとなっている。解決策として、日本はITS(高度道路交通システム)の普及に努めるべきだ。
開発を刺激するテスラ
米テスラは10月10日、ロボタクシー(無人タクシー)のイベントで完全自動運転を実現する「サイバーキャブ」のプロトタイプ(試作車)を発表した。車内にはハンドルやアクセル、ブレーキペダルはなく、2026年末までに3万ドル(1ドル=145円換算で435万円)以下で一般ユーザーにも販売する計画を示した。
テスラの自動運転システムは、他メーカーがレーダー等の付加部品を用いるのに対してカメラからの映像を基本とし、廉価なのが特徴だ。ただ、人間の運転と比較すると聴覚や触覚に相当する部分が少ないので、後述する考え方からすると日本導入に際して、当局の認可は限定的なものになると予測される。
現在、時価総額で自動車業界トップを走るテスラは電動化時代における先進性を誇る一方、旧来の自動車事業(エンジンを中心とする研究開発、生産設備、サプライチェーンや販売ネットワーク等)のレガシー(伝統的)資産を持ちあわせず、将来、パワートレイン(エンジンなどの駆動系部品)の完全電動化や完全オンライン直売に移行した場合、経営リスクがないことが既存のメーカーに対する優位性だ。
新技術をいち早く受け入れるアーリーアダプターのBEV(バッテリー駆動の電気自動車)需要が一巡したことや中国BYDを中心に世界中でBEVの販売競争が激化する中での今回の発表は、内容が抽象的であったために、株式市場の反応は今のところ必ずしもポジティブではない。だが、完全自動運転車両を435万円以下で販売する計画は、世界の自動車メーカーを刺激し、同様の開発プロジェクトをより加速することは間違いない。
問われる「クルマ側」の責任
ところで、「自動運転」は業界にとって、どのような意味を持つのか。自動車産業はCASE(Connected=コネクテッド、Autonomous=自動運転、Shared & Services=シェアサービス、Electric=電動)によって業容が拡大、現在は「ブランド(企業)オリジナリティー」が問われる時代に突入した。ブランドとしてどの領域に注力して価値を創造するのかが生命線だ。自動運転もその領域の一つであるが、現在の自動運転の実質的な位置付けは予防安全(アクティブセーフティー)機能としてのADAS(Advanced Driver-Assistance Systems=先進運転支援システム)だ。つまり、ドライバーが全ての責任を持つ運転支援の域を脱せずに、開発途上にある。世界の自動車メーカーにとって自動運転は重要な位置付けにあり研究開発・設備投資などの資本的支出の高い割合を占める。自動車製品の出荷額55兆円超、就業人口550万人超の日本にとっても、重要な領域である。
①レベル1:前後もしくは左右の一方向を運転支援、②レベル2:前後及び左右の運転支援、③レベル3:特定条件下での自動運転、④レベル4:特定条件下での完全自動運転、⑤レベル5:完全自動運転──に分類できる。テスラのロボタクシーはレベル4~5に相当する。
レベル2システムはすでに、世界中のエントリーモデルにも導入されている。一方で、レベル4は米国アリゾナ州でのグーグル傘下…
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週刊エコノミスト
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