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ケーススタディー 空き家の法的リスク 「所有者責任」で多額の損害賠償=吉田修平

     空き家が長い間放置されると、隣接する家や住民、通行人などに対してさまざまな被害を及ぼす可能性がある。被害が出た場合、所有者は、基本的には、損害賠償責任が問われることになる。民法717条1項・3項は「土地の工作物(建物や塀など)等の占有者及び所有者の責任」を定める。それによると、土地の所有者は、その土地の上に所有している建物や塀などの設置や保存に瑕疵(かし)(欠陥のこと)があり、それにより他人に損害を生じさせた場合は、損害を賠償しなければならない。 もし「土地の工作物」に他の占有者がいれば、1次的にはその占有者が責任を負う。ただし、占有者が損害発生防止のために必要な注意義務を果たした時は、所有者が損害を賠償しなければならない。また、占有者とは異なり、所有者は過失がなくとも損害賠償責任を負う。ただ、現実的には空き家には占有者がいないケースがほとんどだ。以下では、空き家が、他者に損害を及ぼした場合の所有者の責任について、判例や想定ケースを検討してみよう。

     空き家の屋根の積雪が崩落、隣家の柱が倒壊し、就寝していた隣家住民が圧死、家財も損壊した事故で、所有者の責任はどう問われたのか。金沢地裁は1957年、事故が建物所有者が除雪などの適切な雪崩防止策を講じなかったために生じたと判断。建物所有者の「工作物の設置と保存の瑕疵」による民法717条の責任を認めた(金沢地裁昭和32年3月11日判決)。賠償額は建物・家財の損壊や、死亡した住民の葬式費用など合計68万円だった。大卒の月給が1万円あまりだった時代のことである。

     降雨により地盤が緩み、空き家敷地の石垣が崩壊し、隣接家屋が全壊した事故では、広島地裁が98年、石垣の全面補修などをせず、通常有すべき安全性を欠いていたとして、石垣の所有者の「工作物の保存の瑕疵」 が認められると判断した(広島地裁平成10年2月19日判決)。その上で、建物全壊などによる損害、家賃、引っ越し代、及び慰謝料などとして、合計約364万円の損害賠償を命じた。

     なお、判決によると、崩壊前2日間の降雨量は265ミリであった。判決は、降雨量について、数十年に1度はありうるべき程度であり、まったく予想もできないような不可抗力には当たらないものとされている。これら二つのケースのように、自然現象に関連して隣家などに損害を生じさせた場合は、空き家の所有者に損害賠償責任が生じる可能性がある。

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