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週刊エコノミスト Online 書評

中国 「民は食を以って天となす」という哲学=辻康吾

 中華文明の大きな特徴の一つは「食」への深い思い入れであろう。孔子は膾(なます)が好きだった。東坡肉(トンポーロー)は宋代の詩人の蘇東坡(そとうば)が考案したレシピである。中国共産党初期指導者で国民党に処刑された瞿秋白(くしゅうはく)の最後の言葉は「中国の豆腐は世界一うまい」だった、など。

 中華世界では「食」は単なるグルメではなく、「民は食を以って天となす」という諺(ことわざ)どおり生命の根源をなす哲学ともなっている。友人が北京で求めた『知堂談吃(増訂版)』(中華書局、2017年)を見せてくれた。「知堂」とは魯迅の弟である周作人の号の一つで、「吃」は「食べる」ということで「周作人 食を語る」という意味になる。同書は周作人の作品から「食」に関する181カ所を抜粋したものだが、その内容から見て「食」だけではなく彼の文化論ともなっている。

 周作人は兄と同じく日本に留学、帰国後の1920年代の新文化運動の旗手として活躍した。兄の魯迅が痛烈な批判的な雑文などで時局を論じたのに対し、周作人は美しい散文で思想、文化面での啓蒙(けいもう)に務めた。不幸だったのはその後の日本の占領期に北京大学の教職にとどまったため「漢奸(かんかん)」(民族の裏切り者)とされたことだが、北京にとどまった理由は大学を日本軍から守るためであったと言われている。とも…

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