週刊エコノミスト Online 脱化石
原発からEV・半導体へ 脱化石で復活の日本製鋼所=和島英樹
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1907年。日本製鋼所は北海道炭礦汽船、英アームストロング・ウイットウォース社などの出資で北海道室蘭市に設立された国産兵器開発のための会社だった。現在でもミサイル発射装置の設計・製造を手掛けており、株式市場では、設立当初のアームストロング社との資本関係の名残で「アームの日本製鋼」と呼ばれている。ベアリングの「日本精工」やレアメタルの一種アンチモンを手掛ける「日本精鉱」と間違えないためだ。
株式市場で同社の名前を知らしめたのは室蘭製作所で作られていた原子力発電用の圧力容器用部材だ。高品質が求められる世界最大規模の鋼塊から、一体型で製造する。絶対的な安全が求められ、この鍛造技術を有する企業は世界にほとんどなく、90年代の世界シェアは推定5~6割。原発業界では「ムロランが止まれば、世界の原発が止まる」ともいわれていた。
2000年代には二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンなエネルギーとして「原発ルネサンス」と評価され、09年3月期の営業利益は過去最高の366億円に達した。
3・11で株価10分の1
ところが11年3月11日の東日本大震災で状況は一変する。
福島原発の歴史的な事故で国内向けの原発向け部材の売上高は消滅。海外も欧州を中心に需要は激減した。室蘭製作所も減損に追われ、17年3月期までは3期連続の最終赤字を余儀なくされた。
これにコロナ禍も加わり、株価は20年3月には906円と高値から10分の1以下にたたき売られた。
こうした中、同社では産業機械分野に経営資源を集中し、構造転換を進めた。自動車向けのプラスチック射出成形機などへ注力してきたのだ。
そこで利益を出し始めたのが、電気自動車(EV)に動力源として搭載されるリチウムイオン電池(LiB)用のセパレーターフィルム製造装置だ。セパレーターは正極と負極の接触を防ぎつつイオンを通す役割を担う樹脂製のフィルムだ。
実は開発段階でこの製造装置の設計を担当したのが宮内直孝現社長だ。リチウムイオン電池は91年に市場に出て、06年からEVに搭載された。「セパレーターフィルム製造装置は15年から商業ベースに乗るようになった」と宮内社長は話す。
セパレーターの大手は日本企業がかつては強かったが、現在は中国や韓国のメーカーに押されている。ただ、その中韓メーカーでも、フィルムの製造装置は多くが、日製鋼製を採用しているようだ。大手調査機関によれば同社のセパレーター用のフィルム製造装置は世界シェアで7割に達しているという。利益率も高い。「製造にはプラスチック材料と油を混ぜる。この配分がポイント。国内の取引先から次々と新しい課題を与えられ、鍛えられた。長年のノウハウがある」と宮内社長は強さの秘密を語る。技術的に中韓企業が追いつくのは今のところ困難とみている。
半導体材料も量産へ
これに続き、いま株式市場で注目されているのがEVの普及で需要爆発が期待されるパワー半導体の高機能材料だ。実はこちらも原発の圧力容器由来といえる。
日本製鋼所と三菱ケミカルは先ごろ、共同で窒化ガリウム(GaN)単結晶基板を生産できる初の量産実証設備を完成し…
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