主(あるじ)不在で荒廃の家があった場合にどうする?民法で新たな相続財産管理制度=吉田修平
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相続7 資産の管理制度 「主」がいない家や土地でも利用・保全・処分できる3新制度=吉田修平
「主」がいない!家や土地でも利用・保全・処分できる3新制度
今年4月の民法の改正により、相続財産の管理に関して新しい制度が複数創設された。新制度は、内容が複雑なのできちんと整理して理解する必要がある。
ここでは主に、(1)新設の「共有物の管理者」、(2)従来の相続財産管理人の名称を変更した「相続財産清算人」、(3)改正法で新設した新「相続財産管理人」──がどのように相続財産や空き家・所有者不明土地問題に対処できるのか検討してみよう。
共有物の管理者 「単独での利用や改良が可能に」
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ケース1 世帯主の男性が死去し、子がいなかったので妻Aと男性の兄弟B・Cが賃貸アパートを相続した。遺産分割の結果、アパートはA・B・Cの共有となった。高齢のAは介護施設に入所することになり、また同じく高齢のBとCは遠方に居住していることもあり、アパートを管理する意欲も能力も乏しい。アパートには賃借人がいる。賃料改定やリフォームはどうしたらよいのであろうか。
解説 民法では、共有物の現状を維持する「保存」は各共有者が単独でできるが、共有物の取り壊し、建て替え、売却などの「変更」は共有者全員の同意が必要だ。
「変更」に至らない共有物の利用・改良行為である「管理」は持ち分の価格の過半数で可能だ。ケース1の賃料改定やリフォームは「管理」に当たるが、A~Cで連絡を取り合い方針決定をするのは不可能だ。
そこで今回の改正では、管理を単独で行える「共有物の管理者」の規定が新設された。同管理者は、持ち分の価格の過半数で選任され、共有者の1人、あるいは共有者以外の第三者の就任も可能だ。
共有物の管理者は、「管理」行為を単独で行うことができるし、共有物の形状や効用を著しくは変えない範囲での「変更」行為も単独で行える。ケース1のような場合にも、共有物の管理者はいちいちA・B・Cの承諾を得なくてもアパートのリフォームや賃料の改定などを行えるようになったのである。ただし、アパート売却は「共有物の形状や効用を著しくは変えない『変更』」の範囲を超えるので、A・B・C全員の同意が必要である。
また、共有者の一部が所在不明といった場合の対処も可能になった。共有物の管理者が、共有者の一部が誰なのか、またはどこにいるのか分からない場合は、裁判手続きによって、不明者以外の共有者の同意を得て、「変更」行為を行えることになった。したがって、不明共有者がいる場合の共有物を第三者へ売却することも可能となる。共有者不明土地の解消にも貢献することになりそうだ。
相続財産清算人 「相続人不在の資産も処分できる」
ケース2 未婚の母Dの一人息子Eは、Dが死去した後、Dの自宅の土地と建物の相続人であったが、相続放棄をし、その結果、Dの相続人は不存在となってしまった。土地・建物がある町の町長Fは、道路の用地としてDの自宅を買収したいと考えているが、Dの相続人が分からず交渉も行うことができない。
解説 このようなケースについては、今回の改正で「相…
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週刊エコノミスト
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