ゴミ屋敷、廃屋にも対処可能 「困りもの」の不動産だけ集中管理の民法新制度=上田純
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所有者不明土地・建物管理人 「問題物件のみ」管理可能に 事務負担減り処分もできる=上田純
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今般の民法などの改正では、所有者不明土地・建物管理制度と管理不全土地・建物管理制度も創設された。一連の制度が、所有者不明土地や管理不全土地、空き家問題へどう対処できるのか、想定ケースも交えて考えてみたい。
ケース1
住民Aの隣の空き家の壁が壊れかけているが、所有者Bと連絡がとれない。Aとしては空き家を補修するか取り壊し、できれば敷地ごと買い取りたい。
現行制度では、所有者が死亡したが相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄した場合には、利害関係人(ケース1の場合はA)は、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て、同管理人が空き家の補修をし、補修困難など事情があれば空き家を取り壊し、家裁の許可の下、敷地の売却も可能である。
また、所有者が所在不明で、帰ってくる見込みがない場合、利害関係人は、不在者財産管理人の選任を家裁に申し立て、同管理人が相続財産管理人と同様の管理・処分をすることになる。
しかし、相続財産管理人や不在者財産管理人は、相続財産や不在者の財産全般を管理する必要がある。財産全般とは、当該土地・建物に限らず、他の所有不動産、現預金、保険、株式、自動車、貴金属や負債も含み、その調査や管理の負担が大きい。
また、その管理費用や報酬に充てるため、利害関係人は申し立て時に予納金が必要となる。その額は事案によるが、相続財産管理人については東京・大阪で100万円程度、不在者財産管理人については東京は30万〜50万円、大阪では50万円程度とされる(ただし、管理人の換価などにより生じた現預金が残れば返還される)。
さらに、そもそも未登記建物などで所有者が特定できない場合には、不在者財産管理人や相続財産管理人の選任は困難である。
現行は全財産把握
これに対し、新たに創設された所有者不明土地・建物管理制度では、当該土地・建物の所有者の所在が不明の場合、相続人がいない・全員相続放棄の場合に加えて、所有者が特定できない場合にも利用可能である。
利害関係人は、その土地や建物について、所有者不明土地(建物)管理人の選任を地方裁判所に申し立てることができる。対象の土地・建物のみを管理するため、相続財産管理人などに比べ、管理人の事務負担が小さく、予納金も低額となることが期待される。
申し立てができる利害関係人としては、不適切な管理により不利益を被る恐れがある隣地所有者、当該土地・建物を時効取得したと主張する者、当該土地・建物を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者などが想定されている。民間の買い受け希望者についても一律に排除されておらず、事情によっては該当しうる。
所有者不明土地(建物)管理人は、裁判所の許可を得て対象土地・建物を処分することも可能である。その場合、管理人は処分代金を所有者のために供託し、裁判所は管理命令を取り消すことになる。管理人の役割はこの時点で終わる。
この制度は、すべての財産を網羅する現行の相続財産・不在者財産管理制度から、問題となっている土地・建物に限った管理や処分を切り出して制度化した面があり、特定の土地・建物に絞ったスポット的制度とも言いうる。
ケース1では、Bが所在不明、あるいはBが死去し、相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄した場合には、Bの空き家の損壊により不利益を被る恐れのあるAは、所有者不明土地管理人(敷地)と所有者不明建物管理人(空き家)の選任を地裁に申し立てることができる。その際の予納金は現行制度より低額と期待…
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週刊エコノミスト
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