先祖も親も私も共有者……百人単位で所有する「メガ共有」の不動産に改正民法が取り得る手段は?=岩下明弘
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共有者がいっぱい! 百人単位の「メガ共有」解消へ 土地を利用・処分しやすく=岩下明弘
4月に成立した改正民法では、共有制度の改正も盛り込まれた。現行の民法の共有制度では、共有物の「保存(修繕など)」は各共有者が単独でできるが、「変更(田畑を宅地にしたり、建物を改築することなど)」は共有者全員の同意によりなされ、変更には至らない共有物の利用や改良行為である「管理(空き地を駐車場として利用することなど)」は、持ち分の過半数の同意が必要とされている(表)(拡大はこちら)。これでは、土地や建物を共有している者のうち、だれかが所在不明になると、利活用の妨げとなってしまう。
「過半数で可」明確に
多数の共有状態が生じる原因は相続だ。例えば、世帯主が死去した後、自宅の土地・建物を妻と子ども2人の計3人が遺産分割や相続登記をすることもなく放置していれば、法定相続分(妻2分の1、子ども4分の1ずつ)に従っての共有状態となる。さらに、時間が経過し、妻や子どもが死去して2次相続・3次相続が発生すれば、それぞれの相続人が法定相続分に従って共有し、共有者がねずみ算式に増える(図)。
このように、何代にもわたる相続が生じているにもかかわらず、長年、登記されずに放置された結果、極めて多数の共有者、事案によっては数十人、百人単位の共有者、が存在する状態は「メガ共有」と呼ばれる。今回の法改正を議論した法制審議会(法務相の諮問機関)でも、メガ共有に対しての問題意識が共有された。
例えば、共有の空き地を駐車場として利用することは「管理」に当たるので共有者の持ち分割合の過半数の賛成を得る必要がある。例えば、共有者が100人いれば、51人の賛成が必要だ。
しかし、メガ共有の場合には、全共有者の氏名や住所の特定・探索のために過大な負担が生じる。共有者の氏名・住所を特定することができたとしても、持ち分の過半数の賛成を得られない可能性もある。共有者が多数に及ぶために、個々人が持つ不動産の価値が低下し、不動産に対する関心が薄れ、回答を得られないためだ。では、改正民法では、メガ共有に対してどのような対処ができるのか、想定ケースを用いて検討したい。
ケース1
30人で共有している複数の土地について、一部は通路として使用されているが未舗装であり、残りは空き地になっている。共有者Aは、通路をアスファルトで舗装し、空き地を資材置き場のために工事業者X社に3年間賃貸したいと考えている。Aを除く29人の共有者のうち、賛成10人、反対3人、無回答15人、所在不明1人の場合に、Aは、通路をアスファルトで舗装し、空き地をX社に賃貸することができるか。なお、持ち分割合は、各自30分の1とし、以下のケースでも同様とする。
冒頭で述べたように、共有物の「管理」は持ち分割合の過半数で行うことができるが、「変更」には、共有者の全員の同意が必要である。しかし、現行民法では、「変更」の定義がない。田畑を宅地にすることは明らかに「変更」だが、どこまでが「変更」として共有者全員の同意が必要なのか、明らかではなかった。また、判例上、持ち分割合の過半数により、共有物に使用権を設定可能とはしているが、使用権には賃借権や地上権など多数の種類がある。どのような内容、期間の使用権ならば過半数で設定できるのかが明らかではなかった。
改正民法では、「変更」からは、形状や効用を著しくは変えない、軽微な変更を除外することになった。これにより、軽微な変更については、持ち分割合の過半数で行えることが明らかになった。また、共有者に特別の影響を及ぼす場合を除き、持ち分割合の過半数により、短期賃借権などを設定できることが定められた。
ケース1の通路をアスファルトで舗装することは、形状や効用を著しくは変えない。また、X社に資材置き場として3年間賃貸することは、短期賃貸借の設定であるから、全員の同意は必要ない。今までは、「変更」の範囲が分からず土地利用にちゅうちょしていたAも、定義が明らかになり、安心して作業を進められるようになる。
ただ、それでも無回答者が15人に上り、現行民法では、賛成の割合は30分の11で過半数に届かず、Aは、通路をアスファルトで舗装したり、X社に賃貸したりすることができない。
このように、土地に関心のない者により、適切な管理がなされな…
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週刊エコノミスト
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