法務・税務

生前贈与・貢献 ……具体的な相続取り分の主張に10年の期間制限=稲村晃伸

大相続時代が始まる (Bloomberg)
大相続時代が始まる (Bloomberg)

相続3 遺産分割も遅れると大変! 相続開始後10年で一部「主張」に制限=稲村晃伸

相続開始後10年を過ぎると生前贈与・貢献などの考慮困難に

 父や母が亡くなると、遺産を子どもたちで分ける「遺産分割」が始まる。人間には寿命がある以上、近しい親族が亡くなることによる相続は、誰もが経験することだ。そして、遺産分割については、期間による制限がなく、いつでもできるとされている。相続放棄であれば相続人になったことを知った時から3カ月、相続税の申告であれば相続開始から10カ月の期間制限があるのは有名だが、それとは対照的だ。実際、弁護士であれば、昭和の時代や平成の前半に発生した相続に関し、遺産分割調停を現在担当している人も決して珍しくない。

 もっとも、遺産分割に期間制限がないと困ることもある。例えば父親が死去し、相続人が高齢の母親と子どもたちであるような場合、父親名義の不動産の相続人を決めるのは、母親が亡くなってからにしようなどと子どもたちで話し合って決めたとする。しかし、思いのほか、高齢の母親が長生きした場合には、既に死去した父親の名義になっている土地がずっとこの世に存在することになる。

 このように遺産分割に期間制限がないことが、登記上の名義からは土地の真の所有者にたどり着けない「所有者不明土地」問題の一因になっている。そこで、今回の民法改正では、所有者不明土地問題を解消するための方策の一つとして、遺産分割に期間制限を設けることが検討された。

不公平な分割も

 遺産分割とは、どのような作業なのか、考えてみよう。民法の規定では、「遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行う」旨が書かれている。

 つまり、遺産分割とは、ただ単に遺産に属する財産につき母には預金を、長男には不動産を、などと分けるのではなく、遺産の承継者を遺産の性質や相続人の「年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」総合的に決める手続きなのだ。

 他方で、民法の相続編よりも前にある物権編に共有に関する定めがある。共有とは、一つの物について複数の者が共同で所有する形態のことだ。相続人が複数いる場合、共同相続人は相続分に応じて遺産を共有し(遺産共有)、遺産分割によって相続分に応じて遺産を取得すると考えられる。

 その際に基準となる相続分は、民法という法律で決まっているので「法定相続分」という。死去した人(被相続人)の配偶者は遺産の2分の1を、被相続人の子は、遺産の2分の1を均等に分割して相続するということは広く知られている。もちろん、被相続人が遺言を書いて相続人が承継する相続分を指定していたら、それが優先するが、遺言にそうした定めがない場合は、法定相続分で遺産を分割することになる。

 もっとも、遺産を法定相続分どおりに分割すると、かえって公平とはいえない結果を招くことがある。例えば、Xは個人でお店を経営しており、長男AはXの店を長年手伝ってXの資産を1000万円ほど増やしたが、他方でXは次男Bが独立する際、自宅を買う資金として2000万円を贈与したとする。Xが遺言を残さずに死去し、相続人はAとBの2人で、Xの遺産が9000万円の預金だけだったとする。これをAとBが法定相続分どおりに分割すれば、AとBはそれぞれ4500万円ずつ取得することになるが、この結果は公平とは言えない。

 AはXの事業を手伝ってXの資産を1000万円も増やしたにもかかわらず、その点は評価されず、他方でBはXから2000万円もの生前贈与を受けてお…

残り2577文字(全文4077文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事