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自らタリバンを産み、育て、利用した米国が手痛い「しっぺ返し」に遭う日~米ソ冷戦時代からの歴史を振り返る=福富満久

タリバンのアフガン制圧を受け、カブール空港に殺到する人々=ツイッターの動画より
タリバンのアフガン制圧を受け、カブール空港に殺到する人々=ツイッターの動画より

アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは8月15日、首都カブールを制圧し、ガニ政権を崩壊させた。2001年9月11日の米同時多発テロ後、米国主導でタリバンを排除し、国際社会が取り組んだアフガンの民主化は頓挫した。20年ぶりに復権したタリバンは、今後アフガンをどう運営するのか。そもそもタリバンとは、どんな組織か。国際社会とは、どう向き合うのか――。それを理解するには、1980年代末までの米ソ冷戦時代にさかのぼる必要がある。

 米国は20年前の2001年9月11日、世界貿易センターと国防総省に対するテロ攻撃の後、アフガニスタンに侵攻した。米国防総省の報告によると、アフガン、イラク、シリアでの戦争で、01年9月11日以来、1・57兆㌦(約172兆円)を費やし2000人以上の米国軍人がアフガンで亡くなっている。

「3000人の米軍人を故郷に帰還させることは、米国民全員の悲願である」

 米国のバイデン大統領は21年4月14日、米国の戦闘部隊を9月11日までにアフガンから撤退させ、米国最長の戦争を終わらせると高らかに宣言していた。

 バイデン政権はイラクとも、21年4月7日に米国の戦闘部隊をイラクから撤退させることに合意していた。治安を維持したまま撤収ができれば、01年9月11日の同時多発テロの20周年の記念として胸を張るつもりだった。

1979年ソ連のアフガン侵攻

 米国による最初のアフガン介入は、1979年にさかのぼる。79年は、「エジプトとイスラエルの和平条約締結」「イランのイスラム革命」と並んでもう1つ、イスラム世界のみならず世界に衝撃を与えた事件があった。旧ソビエト連邦によるアフガン侵攻である。

 もともとアフガンは1747年に王国として建国され、1880年に他の湾岸諸国と同様英国の保護下に入った。1919年、再度独立を達成、1973年7月、軍事クーデターによって王制から共和制に移行した。

 その後、隣国のイランでイスラム革命が起きる前年の1978年5月、再びクーデターにより共産主義政党である「アフガン人民民主党」政権が成立した。

 これに反発する武装勢力による暴力が全土に拡大したため、アフガン人民民主党政権はソ連に軍事介入を要請、ソ連軍は1979年12月24日に軍事介入を開始。以降、ソ連の庇護下でバブラク・カールマル政権が成立し、ソ連は影響力を拡大していった。

米国はソ連の南下を阻止

 これに対して、米中央情報局(CIA)とパキスタン軍統合情報局、サウジアラビア総合情報庁は、ソ連に対抗するイスラム戦士(ムジャヒディーン)を訓練・育成して対抗することにした。東西冷戦の真っただ中で、米国が取りうる政策は一つだった。

 ソ連の影響下にアフガンが入れば、国境を接するパキスタンに影響が及ぶのは必至だった。仮にパキスタンが共産化することになれば、ソ連は直接インド洋に軍艦を浮かべることになる。隣国イランもイスラム革命で米国に敵意をむき出しにしていた。危機感を抱いたパキスタン当局と米国当局は、アラブの盟主サウジアラビアを抱き込んでこれに対応した。

米国の「ダブルスタンダード」

 米国はイランではイスラム革命とホメイニ師を侮蔑し敵視したのに対し、隣国アフガンでは、イスラム勢力を支援した。米国は、この一貫しない行きあたりばったりの行為によって、以降高い代償を払うことになる。

 1984年、アフガンで前出のイスラム戦士であるムジャヒディーンを思想教育していたムスリム(イスラム教徒)同胞団のアブドゥッラー・アッザームの教えに共鳴した3万5000人の志願兵が世界各地から集結し、アッザームを師と敬う富豪のウサマ・ビンラディンが資金援助して地位を確立した。

 1988年、駐留ソ連軍の撤退を定めたジュネーブ和平合意が成立し、翌年2月ソ連軍が撤退完了すると、イスラム主義を標榜するイスラ教スンニ派ムスリムを主体とした「基地」や「拠点」を意味する「アルカイダ」が結成された。1989年、ビンラディンが指導者となった。

サウジ出身のビンラディン

 1991年、湾岸戦争が勃発すると、サウジ防衛とペルシャ湾一帯の安全確保のためサウジやバーレーンなどに米軍が駐留することになった。バーレーンには1995年から米国中央軍の司令部が置かれ、2万5000人の米兵が軍務に服し、第5艦隊がペルシャ湾全域を掌握した。サウジ出身のビンラディンは母国が米国に屈服したことに屈辱と憤りを感じるほかなかった。以後、米国とその同盟国に対するテロを指揮することになった。

イスラム戦士同士の内戦

 一方、アフガンは1992年4月、ソ連という後ろ盾を失ったムハンマド・ナジーブッラーナジブラ政権(カールマル政権の後継)が崩壊、ムジャヒディーン各派による連立政権が発足した。

 ところが、ブルハーヌッディーン・ラバニ大統領が当初の任期を過ぎても政権に居座ったことから、ムジャヒディーン同士の主導権争いが激化し内戦に入ることとなった。

 イスラム協会(タジク人中心ラバニ派)、イスラム党(パシュトゥーン人中心ヘクマティヤル派等)、イスラム統一党(イスラム教シーア派のハザラ人中心のハリリ派およびアクバリ派)、イスラム国民運動党(ウズベク人中心ドスタム派)が主要な勢力として覇権を競って離合集散を繰り返すことが3年あまり続き、この混乱の中から「神学生」を意味する新興勢力タリバンが94年末に台頭した。

 つまり、タリバンは米国が産み、育て、利用した武装集団なのだ。

2001年11月米英有志連合がカブール制圧

 2001年9月11日米同時多発テロが発生すると、真っ先にやり玉に挙がったのが、このタリバンだった。同テロ首謀者として容疑をかけられたウサマ・ビンラディンを匿っているとして、米国と英国をはじめとした有志連合諸国によって攻撃を受けることになる。

 北大西洋条約機構 (NATO)はテロ攻撃に対して「集団的自衛権」(北大西洋条約第5条)を発動し、米国と英国をはじめとした有志連合諸国は10月7日から空爆を開始した。国際法を捻じ曲げた運用であった。11月13日には北部同盟軍がアフガンの首都カブールを制圧した。

ビンラディンはアフガンにはいなかった

 米国は同国在外公館に対して幾度となくテロを行ってきた首謀者としてウサマ・ビンラディンとアルカイダに嫌疑をかけていた。米国はアフガンの9割を実効支配していたタリバン政権に対し幾度となく同国に居住しているビンラディンとアルカイダの主要メンバーの引き渡しを要求したが、タリバン政権が拒否したため、本格的な攻撃に踏み切った。

 この攻撃は米国によって「対テロ戦争」の一環と位置づけられ、国際的なテロの危機を防ぐための防衛戦として行われた。英国など多くの欧州諸国がこの攻撃に賛同した。対テロ戦争全体の作戦は、「不朽の自由作戦 (Operation Enduring Freedom)」と名づけられた。英国では「ヘリック作戦 (Operation Herrick)」と呼ばれた。だが、ビンラディンの行方は判明しなかった。

 これ以降、国連主導でアフガン復興と治安維持が行われるようになるが、タリバン勢力が再び台頭してアフガンの治安は、その後も回復することがなかった。以降、米国のオバマ政権はアフガンの治安回復に力を注いだが、トランプ政権になるとアフガンへの関心は完全に薄れ、撤収を考えるようになった。

危惧される親米アフガン人の粛正

 今回、タリバン政権の全土掌握は、不可避であったと言わざるをえない。そもそもアフガンを暴力で支配したのは米国である。女性の人権保護や民主化を叫んだところで、アフガンの人々の心に届くはずがない。今後はこれまで米国側について働いていたアフガン人の粛清(大量虐殺)が最も危惧される。

 最終的に、米国は中国とロシアというユーラシア大陸における2強国にアフガンの指揮権を事実上、渡すことになってしまった。反米国家のイラン、シリアは米国の力の衰退をあざ笑い、強権体制をますます強めていくだろう。

麻薬取引が資金源に

 他方、米国との関係を維持してきたパキスタン、トルコはアフガンからの難民やテロ集団に頭を悩ますことになろう。また、再建中のイラクにとっても大きな負の影響が及ぶことになる。

 タリバンは、麻薬取引によって資金源を得ている。武器弾薬は、これまで米国が支援してきたものを奪って使用するだろう。世界を震撼させたISというイスラム原理集団より、その領域も、構成員も、装備も増強されたイスラム原理集団に、米国はどのように立ち向かうのか。

 そもそもタリバンを産み、育て、利用してきたのは、米国自身である。将来さらに高い代償を払うことにならないことを願うばかりだ。

福富 満久(ふくとみ・みつひさ)

一橋大学大学院社会学研究科・社会学部教授。1972年生まれ。パリ政治学院Ph.D. 早稲田大学博士(国際政治学・国際関係論専攻)。中東・フランス・米国に計10年在住。2009年4月より政府系シンクタンク主任研究員等を経て、12年4月より一橋大学大学院社会学研究科准教授、15年4月より現職。その間、 KCLロンドン大学キングス・カレッジ・ロンドン戦争学研究科シニア・リサーチフェロー等を務める。最新の論文に“Could humanitarian intervention fuel the conflict instead of ending it?”『International Politics』 2021年7月号, p.1-21, Springer Nature/Palgrave Macmillan, 2021.7

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