国際・政治

イスラエルとパレスチナが戦闘を繰り返す理由=福富満久

    米国の対中国政策に利用される中東 バイデン政権は親イスラエルを継続=福富満久

     5月10日から戦闘状態に入っていたイスラエル政府とパレスチナのイスラム組織ハマスが停戦に合意し、5月21日に発効した。聖地エルサレムでの衝突を発端として11日間続いた戦闘でパレスチナの子ども65人を含む232人が犠牲となった。イスラエル側では12人が死亡した。

     今年はイスラム教徒にとって重要なラマダン(断食月)が4月12日から5月12日までだった。イスラエル警察は、エルサレム旧市街にあるイスラム教徒地区のダマスカス門前の広場を日没後にイスラム教徒が散策や食事などで集まるため、治安維持の目的で封鎖、パレスチナから抗議運動が起こっていた。

    政争の具

     また、イスラエルにとっては5月10日は、1967年の第3次中東戦争で東エルサレムを占領した祝日にあたる。アラブ系住民の示威行為が、この日最高潮に達し、1200人以上の負傷者を出すまでに発展、これが、衝突の直接的原因であった。

     だが、戦闘激化の理由はそれだけではない。イスラエル史上最長の在任期間となるネタニヤフ首相は、汚職疑惑によって支持率が低下、連立内閣が機能せず、この2年で4回目となる総選挙が行われる異例の事態に陥っていた。3月の総選挙後も組閣に失敗。求心力を回復するためにハマスを攻撃して、強い首相をアピール、汚職疑惑の解消ももくろんだ(反ネタニヤフで野党が6月2日、連立に成功、ネタニヤフ首相は退陣の見通し〈6月4日時点〉)。

     一方のハマスは、穏健派のファタハ率いるパレスチナ西岸(パレスチナ本体)と主導権争いをしており、応戦して支持の拡大の思惑があった。しかし、イスラエル内政を読み違え、大規模な空爆を予想しておらず、多大な犠牲を払う結果になった。

     今回のイスラエルとハマスの衝突で見えてきたものがある。それは、今一つはっきりしなかった米国のバイデン外交の基本ラインと今後の動向である。

     トランプ前大統領の4年間の中東外交を総括すれば、就任後にイランとの核合意を破棄、その一方で、2017年12月に突如、東エルサレムをイスラエルの首都に認めるなど、反イラン、親イスラエルであった。

     では、バイデン外交はそれから何か変化を見せただろうか。結論から言えば、バイデン外交も相変わらずイスラエル支持を表明、仲介役のエジプトなどとの対話も進めているが、大きな変更点はない。なぜか。その背後には中国があるからだ。

    安保理で中国の米国批判

     イスラエルとハマスの対立の激化に関する国連安全保障理事会の会合で、中国の王毅外相は、安保理が状況について統一された声明を発表することを妨げたとして米国を非難した。米国は紛争の終結に向けて取り組んでおり、停戦を支持すると述べたが、戦闘に関与する当事者が主導権を握る必要があると示唆するのみで、イスラエルを擁護する姿勢を変えず、逆に中国から米国の協調性のなさを非難される始末であった。

     そもそもパリ協定に復帰し、国際協調路線に回帰するバイデン米政権が、国連安保理で「イスラエルとパレスチナ闘争への自制を促す共同声明」を出せなかったのは、なぜか。それは、米国の外交は中国を抑え込むということを最大の目標としているからだ。

     米国がイスラエルを支援するのは、米国内にいる政財界に多大な影響力を持つユダヤ系市民やユダヤ系ロビーを気遣っていることが最大の理由ではない。ユダヤ系米国人の米国内の人口は715・3万人であり、これは米国の人口2・2%に過ぎず(ユダヤ・バーチャル・ライブラリー)、そのわずかな票を取るためだけに米国の民主党も共和党も動いていない。

     両党に共通する理念、それは米国を覇権国として世界で維持する、というのが最大の理由である。米国にとってイスラエルは、不安定化する中東で唯一信頼できる同盟国だ。かつてはトルコも友好的な関係にあったが、エルドアン大統領の長期政権になってからは冷え込んだままだ。

     米国にとって、ユーラシア大陸は冷戦時代から鬼門となっている。「シベリアの熊」ソ連を45年にわたって抑え込み、91年ソ連崩壊でそのもくろみは成功したかにみえた。

     だが、冷戦崩壊からちょうど30年、今度は「アジアの巨竜」中国が本格的に台頭してきた。「一帯一路構想」で、ユーラシアを支配しようともくろむ中国を抑え込む西の際はイスラエルだ。

     地球上最大の大陸ユーラシアには、他にも米国に敵対するイランや北朝鮮がある。これらの国を前線で封じ込めることができるのは、東では日本と韓国、西では欧州諸国を除いてイスラエル以外にない。これらのいずれもが自国の安全保障を米国に頼っているからだ。

     視点を変えてみよう。イスラエル重視はアラブ諸国を軽視することに他ならない。いかにして、それは可能になっているのだろうか。

    もはやアラブは不要

     米国は00年代以降、シェールオイル・ガス革命によって原油の自給率を高めてきた。それと同時に自国のエネルギー安全保障を見直し、中東依存度を極力減らす取り組みを行ってきた(図1)。その結果、20年度には、ペルシャ湾岸(主にサウジアラビア)からの石油を日量77万バレルしか輸入していない。OPEC(石油輸出国機構)全体でも同年日量89万バレルしか輸入していない。全体では、米国は日量786万バレルを輸入しているが、同盟国であるカナダから同年日量412万バレルを輸入しているのを筆頭に、中東や安全保障で対立するイランなどが加盟するOPECからの輸入も絞っている。

     その意味で米国は、もはやアラブを必要としていない。70年代には、米国はOPEC諸国から全輸入量の約8割を頼っていた。その年代には、第1次石油危機、第2次石油危機が起きたが、視点を変えれば、いかに産油国が米国の高依存を逆手にとって繰り出した「戦略」であったかがわかる。現代において、OPEC全体量の産油量は、全世界産出量の3割にも満たず、OPEC発の石油危機が起きることも考えにくい(図2)。

    米国は武器輸出大国

     さらに、米国は中東で戦争が起きてくれた方がいいと考えているフシがある。中東は、米国にとって軍需産品の輸出先だからだ。

     ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、米国は武器輸出国として世界一、シェアは37%である(図3)。20年の米国の軍需産品の47%は中東へ輸出されている。そのうち24%がサウジ向けだ。サウジは、イエメン内戦に加担しており、米国から輸入する武器を使用し、対イラン国防戦略にも使っている。

     なお、19年の全世界での軍需産品製造会社のトップ5は、いずれも米国の企業である。ロッキード・マーチン、ボーイング、ノースロップ・グラマン、レイセオン、ジェネラル・ダイナミクスだ。政治献金でも上位を占める、これらの企業の同年の売り上げは1660億ドル(約18兆円)にも上る。上位25位まで広げると、その半分は米国企業が占め、そのうちの売り上げは実に61%に達する。

     トランプ政権時代に、同大統領の娘婿のクシュナー大統領上級顧問が湾岸諸国を歴訪し、最終的にUAE(アラブ首長国連邦)、スーダン、モロッコ、バーレーンが国交正常化に向けて合意した。イスラエルとの国交回復に一役買ったのは、ロッキード・マーチン製の最新鋭のステルス戦闘機F35や無人偵察機、レイセオン製パトリオットミサイルの配備などを同様に売り込むためであった。

     これでは、米国が中東和平を推進できるはずがない。イスラエルとパレスチナの仲介役になることは見込めず、イスラエルとパレスチナの「2国共存」という未来像は遠のくばかりだ。

    日本は「命の水」を支援

     日本ができることは、実は多い。水、医療・薬品、農業支援、IT支援、インフラ支援など多岐にわたる。エンターテインメントに関する興味も昔から高い。

     中でも特に水。イスラエルとパレスチナの土地を巡る争いは、水を確保する争いでもある。先祖由来の土地を一度手放し、2000年もの間、流浪の民として土地を持たなかったユダヤ人は、土地に対する信仰が極めて強く、農地開拓に熱心である。土地を豊かにするには水が不可欠で、限られた水源からの水の争奪戦が日常的に起きているのが現状だ。 

     アムネスティ・インターナショナル報告書によれば、パレスチナ住民の1人1日当たりの水の消費量は約70リットルで、WHO(世界保健機関)が推奨している1日当たり100リットルを下回っている。

     一方、イスラエルは1日1人当たり300リットルでほぼ4倍である。地方によっては1日当たり20リットルしか使えないパレスチナ人もいる。イスラエルは被占領地内の唯一の地下水源である山岳帯水層の水の80%以上を利用しており、そしてまた、パレスチナ人が利用を認められていないヨルダン川の地表水を全て利用している。

     浸透膜によって海水を淡水化したり、地下水脈の発見や、その地下水脈を汚さないための下水道処理技術などで日本が協力できれば、中東和平を間接的に推進できる。水を巡る争いが緩和し、イスラエル・パレスチナ問題が和平へ向かって進展すれば、イスラエル・アラブ双方にとって信頼できるパートナーだと認知してもらえることになる。長い目で見れば、間違いなく日本にとって国益になるはずだ。

    (福富満久・一橋大学大学院教授)

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