中古スマホ文化を広める――井上大輔さん
Belong社長 井上大輔
いのうえ・だいすけ
1987年神奈川県生まれ、2011年早稲田大学政経学部卒業。同年伊藤忠商事入社。19年に社内ベンチャーBelongを設立。20年に同社代表取締役社長に就任。プロバスケットボールBリーグの佐賀バルーナーズに所属する井上諒汰選手は実弟。
商社パーソンから社内ベンチャー経営者へ──。家で眠る中古スマートフォンを再生し、提供する事業に取り組んでいる。(聞き手=内山勢・地域ジャーナリスト)
伊藤忠商事の情報通信を担当する駐在員として、ニューヨークで日々最先端のトレンドを勉強していた2014年ごろに知ったのが、中古スマホのEコマース(ウェブ販売)のスタートアップでした。通信分野は米国で流行したものが数年かかって日本に導入されることが多く、「いずれ日本でもこの波が来る」という実感がありました。ただ、当時日本では新品スマホの端末が「1円」で販売されていた時代です。中古スマホの2次流通市場が成り立つ環境ではありませんでした。
帰国後、政府主導で端末と通信の「分離プラン」が推進され、「1円」端末が数万円から十数万円で販売されるようになりました。『ニューヨーク時代に思い描いたことを実現させるのは今しかない』と、北米で一緒だった清水剛志氏(元Belong副社長)と意見が一致しました。
伊藤忠の社内ベンチャーとして、事業立ち上げに先立って中古スマホ市場をリサーチしました。分かりやすいのは、古本や中古ゲームと一緒に中古スマホも販売している総合リユースビジネスです。他に、電気専門店が集まる秋葉原などでITデバイスに詳しい人を対象にした店舗はありましたが、一般ユーザーを対象に中古スマホ専門で本格的に展開している企業が見当たらなかった点がチャンスだと考えました。
「三つ星」で品質を保証
19年3月から座間市(神奈川県)の端末オペレーションセンターで清水氏と2人で手作業で検品を始めましたが、4月になっても売れたのはわずかな台数。「このままではまずい」とサイトも自分たちで改善に取り組んだところ、6月から月数百台規模になりました。購入者のカスタマーレビューを見ると、「新品端末が価格的に手が届かない」と悩んでいたり、スマホを買い取りサービスに出す際に「データ消去に不安がある」と思っていたりする人が大勢いることが分かり、ニーズがあることを確信しました。
当社で買い取った端末は、座間のセンターでデータを完全に消去し、厳しく機能検査をしています。消費者向けの販売サービスサイト「にこスマ」で販売する端末は、通信キャリアの使用制限がなかったり、外観がきれいだったり、バッテリーの状態が良いといった独自の基準で品質を保証し、「三つ星スマホ」として販売しています。
日本では中古スマホの普及率はまだ5%ぐらいとみています。100人のうち5人しか利用していません。北米では約2割といわれています。ただ、日本でも23年度の中古スマホ販売台数は273万台、28年度には438万台規模になると見込まれています。
フリマアプリ「メルカリ」やアマゾンジャパンなど業界を代表する企業と提携したのは、リユースとしての「中古スマホ文化」をさらに広めたいという思いがあります。今後は、法人向け事業のさらなる拡大やウエアラブルなどスマホ端末周辺領域の拡大などにトライしていきたいと考えています。
企業概要
事業内容:中古スマートフォンの買い取り・販売
本社所在地:東京都港区
設立:2019年2月
資本金:9億円(資本準備金含む)
従業員数:244人(派遣社員含む)
週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載
井上大輔 Belong社長 「中古スマホ文化」を広める