地下消火栓を「掘らずに凍結」で交換――ゴルバニ・レザさん
エコノフリーズ代表取締役社長 ゴルバニ・レザ
ふだんあまり目にしないが、街のどこにでもある地下消火栓。そのメンテナンスを短時間、低コストで可能にする新工法を開発した。(聞き手=位川一郎・編集部)
「NEF工法」という、地面を掘削しないで凍結による地下消火栓の取り替えを行う技術を開発しました。深さ1メートル以上のマンホールにある消火栓の首元に発泡スチロールの容器を設置して、その中に液体窒素を流し込んで配管内の水を凍結し、新しい消火栓と交換します。狭いマンホールの中には入らず、作業は外から特殊な工具を使って行います。
従来、老朽化した消火栓を交換するには断水するのが普通でした。消火栓の水と私たちが飲む水は同じ配管でつながっていて、断水すると周辺の住宅の飲み水も止まります。断水しないで凍結する工法もよく行われますが、その場合は作業スペースを確保するため周囲を掘削しなければなりません。危険性や通行の不便の問題から掘削できない場所も増えています。断水できない、あるいはしたくない、掘削もできない──という場所にNEF工法は適しています。
短時間で施工できるのもメリットです。掘削する場合は2日間程度かかりますが、NEF工法ならだいたい半日で1カ所できます。コスト的にも有利です。重機を動かしてダンプカーで廃棄物を運ぶことと比べると、二酸化炭素(CO₂)の排出が少なく、振動や騒音もありません。
当社はもともと凍結専門の会社で、従来の掘削する工事でも凍結をやらせてもらっていました。その中で、いろんな関係者から「掘らないでできないかな」という話をいただいてNEF工法の開発に取り組みました。
2割以上が耐用年数超え
消火栓の耐用年数は30年程度とされます。東京都にある13万基以上の消火栓のうち毎年1.5%が老朽化していますが、0.8%分しか更新できていません。老朽化した消火栓は0.7%ずつ増えていることになり、現在は全体の2割以上が耐用年数を超えているといわれます。
全国的にも、高度経済成長の時に一気にインフラ整備が進んだので、更新時期も一気に来ています。老朽化した消火栓から水が噴き出す事故もよく起きるため、更新を早めることにNEF工法は貢献できるんじゃないかなと思います。能登半島地震で断水が長く続きましたが、防災の観点でも早い更新が大事です。
工事実績は毎年増えています。昨年、東京都ベンチャー技術大賞を受賞したことで、都外からも声をかけられるようになりました。ただ、この工法は「匠(たくみ)の技術」でもあって、狭い場所で安全、確実に作業するには練習が相当必要です。工事の過程では、凍っていることを確実に自信を持って判断しなければなりません。もし凍っていないと水が噴き出して大変なことになります。熟練の技術者を育てて、少しずつ会社が大きくなればいいかなと思っています。
若いころからウォークマンなど日本の電子機器に関心がありました。20代の時に観光で来て日本が好きになり、日本語を学び、働きながら大学を卒業しました。30代で米国に戻った際に凍結工法に出会って勉強したのですが、やっぱり日本が一番いいと思い、また戻ってきて起業しました。日本にはお世話になった方が大勢いるし、きれいで安全で食べ物もおいしいです。
企業概要
事業内容:NEF工法と凍結工法による地下消火栓のメンテナンス、凍結工法による水道工事、水道インフラメンテナンスに関わる新工法開発など
本社所在地:東京都多摩市
設立:2015年8月
資本金:550万円
週刊エコノミスト2024年9月17日号掲載
ゴルバニ・レザ エコノフリーズ代表取締役社長 「掘削せず凍結」で消火栓を交換