リンゴの搾りかすから人工皮革――藤巻圭さん
appcycle代表取締役CEO 藤巻圭
搾りかすから人工皮革を製造することで、リンゴの付加価値を高め、持続可能な農業を目指している。(聞き手=稲留正英・編集部)
ジュースなどに加工した後に出るリンゴの搾りかすを原料に、リンゴ由来の人工皮革「RINGO-TEX(リンゴテックス)」を開発・製造・販売しています。会社の目的は、青森の代名詞ともいえるリンゴ産業を持続可能なものにしていくことです。
社名は、本来は捨てられる廃棄物に新たな価値を与え、再生することを意味する「アップサイクル」と青森の主要産品であるリンゴの「アップル」を掛け合わせた造語に由来します。
日本で栽培される果樹では、リンゴが2022年の生産量で74万トンとミカンの68万トンを上回り1位です。そして、その6割、44万トンを青森県で生産しています。青森県のリンゴ販売額は年間で1000億円を超え、地域の雇用と産業を大きく支えています。
しかし、少子高齢化により農家の後継者不足で、10年後には、青森のリンゴ生産は80%減るという予測もあります。とはいえ、「農業をしよう」と呼び掛けても、昨今はなかなか人が集まりません。そこで、周辺産業として、リンゴの廃棄物を世界で勝負できる人工皮革に「アップサイクル」することによって、リンゴの付加価値を高めながら、関係人口を増やし、地元の農業に貢献していくことを目指します。
青森で発生するリンゴの搾りかすは年間2万〜3万トンに達します。東北大学と弘前大学で開発された技術を使い、これを乾燥させて、粉末状にします。乾燥に際しては、二酸化炭素(CO₂)の排出を抑える技術を使っています。強度を確保するためバイオポリウレタンと混ぜ合わせ、大阪や埼玉の委託先工場で人工皮革に加工してもらいます。当社の製品は、ロットごとの強度のブレがないことで、取引先から評価されています。
全日空機の座席ヘッドレストに採用
製造された人工皮革はジーンズショップ「ライトオン」でご当地タレントの王林さんがデザインした帽子やポーチに使われたり、全日空の機内の座席のヘッドレストとして採用されています。他方、青森県、青森市、弘前市やリンゴ農家、加工業者などとコンソーシアムを組み、新規の就農者を増やしたり、それらのノウハウをまとめ、スマート農業化も目指しています。
私は専門学校卒業後、東京で美容師として働き始めました。しかし、加齢で髪が細くなり、パーマのかかりが悪くなる人が増えたため、髪を太くする再生医療の仕事に転じ、大学とも付き合いができました。そうした中、たまたま、東北大学にリンゴの搾りかすを合成皮革にする技術があることを知り、スタートアップとして事業化に踏み切りました。
今後は、リンゴの搾りかすを使い、医療原料やバイオ燃料、化粧品の原料に「アップサイクル」することにより、リンゴ産業にさらに付加価値を付けていく計画です。その後は、素材をミカンやブドウ、お茶、ホタテなどにも広げ、日本の1次産業全体の付加価値を高め、元気にしていきたいと考えています。
企業概要
事業内容:リンゴの廃棄物を活用した人工皮革の開発・製造・販売
本社所在地:青森市
設立:2022年5月
資本金:200万円
従業員数:3人
週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載
藤巻圭 appcycle代表取締役CEO リンゴの搾りかすから人工皮革