杉の異次元用途で林業を再生――高橋則之さん
杉のチカラ代表取締役社長 高橋則之
杉の用途は木材だけではない。生木の成分という活用されていない「チカラ」に着目し、新しい需要を開拓する。(聞き手=位川一郎・編集部)
日本の林業には活力がありません。木材の国際競争力がなく、苦労して育てても赤字です。我々は、杉の未利用間伐材を原料にして林業を再生したい。1ヘクタールに3000本の苗を植えて材木になるのは600本。2400本は間伐材で、多くが未利用です。これをペットのヘルスケアなどの領域で使おうと考えました。異次元の用途で商流を作れば、山主さんは元気になります。
まず“一丁目一番地”が猫のマーケット。猫のトイレに使うオーガニック猫砂「杉にゃん」を販売しています。杉の揮発成分「セスキテルペン」によって、抗菌・消臭に加え、リラックス効果、免疫活性効果などの森林浴効果があります。ヒノキや松は猫に有害とされる精油成分を含みますが、杉にゃんにはありません。猫砂は必ず粉塵(ふんじん)が出て、猫は粉塵の付いた体毛をなめてしまいます。だから、完全無添加で無害な猫砂が必要なのです。杉にゃんは人が食べても安全なレベルです。
天日乾燥で成分を生かす
生木を粉砕した「おが粉」を原料として仕入れ、ビニールハウスで天日乾燥します。通気性の良いトレーを重ねて乾燥を早める、3年ぐらい試行錯誤して特許を取得した製法です。作業は障害者雇用を支援している団体とのコラボで、「猫福連携」と呼んでいます。木を素材とする猫砂は他社にもありますが、有効成分を揮発喪失させる人工乾燥でしょう。製品にした時に自然の力を享受できるのは天日乾燥だけだと思います。希望小売価格は5リットルで1800円(税別)。すべてオンライン販売です。
杉材のキャットタワー「ニャンテリア」も販売しています。また、杉の生体水を精密濾過(ろか)した「杉の精」というクレンジングオイルを発売予定です。猫用ですが、この生体水で杉花粉アレルゲン(アレルギーの原因物質)を分解できることを発見し、特許出願済みです。
物流コンサルタントとして福島県の奥会津を訪れた時、木の運搬技術に度肝を抜かれました。ワイヤと滑車だけで何トンも運搬して並べてしまう、すごい技術です。林業について知りたい気持ちを抑えられず、大工の修業をして建築をやるようになりました。
ペットとの出会いは、猫を27匹飼っている人からリフォームを頼まれた時です。全部杉材で内装し、各階にキャットタワーを取り付けて、評価されました。これがニャンテリアにつながりました。その後、商品発送の段ボールに詰めた杉のおがくずを「香りがいい。猫砂に使いたい」と言うお客さんがいて、そこから杉にゃんの開発が始まったんです。
実は、木を粉砕したバイオマスはほかにも需要があります。キノコの菌床です。世界的にキノコがヘルシーブームで注目されています。林地に放置されお金にならない未利用間伐材を収集・運搬する仕組みを作り、用途に応じて加工して世界へオンライン販売するハブセンターを開設したい。多くの山主さんをフランチャイズ方式で巻き込みたいんです。2028年のIPO(新規株式公開)を目指していますが、その前に具体的な計画を発表できればと思っています。
企業概要
事業内容:製造型小売業、木製品製造業、木製ペット用品製造・EC販売、木材利用及び木質バイオマスに関する関連事業など
本社所在地:埼玉県久喜市
設立:2020年4月
資本金:4017万6800円
従業員数:5人
週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載
高橋則之 杉のチカラ代表取締役社長 杉の異次元用途で林業を再生