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経済・企業 挑戦者2024

かくれフードロスをなくす――加納千裕さん

かのう・ちひろ 1987年埼玉県生まれ。女子栄養大学栄養学部を卒業後、総菜製造販売「ロック・フィールド」、和菓子製造販売「榮太樓總本鋪」などに勤務。途中、父の勉氏(元セブン‐イレブン・ジャパン常務)が創業した会社でピューレの商品開発や過熱水蒸気オーブンの営業などを担当。2020年8月、「ASTRA FOOD PLAN(アストラフードプラン)」を設立。24年3月、過熱蒸煎機の特許を取得。(撮影 武市公孝)
かのう・ちひろ 1987年埼玉県生まれ。女子栄養大学栄養学部を卒業後、総菜製造販売「ロック・フィールド」、和菓子製造販売「榮太樓總本鋪」などに勤務。途中、父の勉氏(元セブン‐イレブン・ジャパン常務)が創業した会社でピューレの商品開発や過熱水蒸気オーブンの営業などを担当。2020年8月、「ASTRA FOOD PLAN(アストラフードプラン)」を設立。24年3月、過熱蒸煎機の特許を取得。(撮影 武市公孝)

ASTRA FOOD PLAN代表取締役社長 加納千裕

 これまで残渣として捨てられていた野菜の端材や未利用農作物をおいしい食品原料にアップサイクル。「かくれフードロス」の削減を目指す。(聞き手=位川一郎・編集部)

>>連載「挑戦者2024」はこちら

「過熱蒸煎機」という従来にない機械を開発しました。野菜の端材や未利用農作物を400度前後の水蒸気(「過熱水蒸気」)で乾燥、殺菌し、パウダーを作ります。フリーズドライは乾燥に24時間かかりますが、過熱蒸煎機は5~10秒で乾燥できてエネルギーコストが安い。栄養残存率が高く、香りがすごくいいのも特徴で、素材の良さがギュッと濃縮されています。

 機械の導入実績は4件。最初に形になったのは吉野家とのプロジェクトです。埼玉県加須市に吉野家ホールディングスの野菜加工センターがあって、牛丼に入れるタマネギの下処理をしていますが、芯や表面の硬い部分、スライスした際の規格外のサイズのものなど年間最大250トンの端材が廃棄されてきました。これをレンタルした過熱蒸煎機で乾燥してタマネギパウダーにしてもらい、私たちが買い取って、パンやクッキーなどの原料としてメーカーに販売しています。実証実験に2年くらいかけ、今年2月に本格稼働しました。パウダーには、循環型の粉という意味で「ぐるりこ」と名前をつけました。

「ぐるりこ」のサンプル
「ぐるりこ」のサンプル

 メーカーに卸すだけでなく、消費者向けの販売も始めています。5~6月に、クラウドファンディングサービスの「Makuake(マクアケ)」で「タマネギぐるりこ」を販売しました。大手通販サイトでも販売を準備しています。

 国内の「フードロス」は年間500万トン余り。賞味期限切れや食べ残しなどです。でも、食品ができる過程で出てくる野菜の端材などの残渣(ざんさ)は含まれず、年間約2000万トンあるとみられます。出荷されず廃棄される規格外農作物も含めるともっとあるはずです。私はこれらを「かくれフードロス」と名づけました。

「ぐるりこ」の販路拡大へ

 当社の最終目標は「かくれフードロス」ゼロです。しかし、過熱蒸煎機をこの切り口で開発したわけではありません。私の父は、酸化を防ぐ過熱水蒸気の技術を使って色鮮やかで風味豊かなピューレを作る事業をやっていました。当時、私も父の会社で働いていて、この技術を応用して色、香り、栄養を損なわない抗酸化パウダーを作れないかと思っていました。当社で過熱水蒸気と熱風乾燥機の技術をドッキングした過熱蒸煎機を開発して、思いが10年越しに実現しました。機械の使い方についてメーカーからヒアリングする中で、かくれフードロスがない食品メーカーはないことが分かったんです。

 今の課題は「ぐるりこ」の販路です。機械を導入してもらおうとしても、「ぐるりこ」の売り先がないと循環がつっかえる。需要開拓の必要性をすごく感じます。

 もう一つ、生産地で発生する規格外農作物などにも過熱蒸煎機は使えます。昨年度、地元の富士見市で、県内産の規格外品などを集めて「ぐるりこ」にし、学校給食や飲食店に提供する産官学連携プロジェクトを実施しました。今年度は深谷市、久喜市にも拡大し、群馬県でもオリーブやキャベツをアップサイクルする事業を予定しています。食材ごと、地域ごとの課題に合わせた仕組みを作りたいと思います。


企業概要

事業内容:食品加工機械の研究開発・販売、食品の開発・製造・販売、食品関連事業のコンサルティング

本社所在地:埼玉県富士見市

設立:2020年8月

資本金:1億円

従業員数:8人


週刊エコノミスト2024年7月9日号掲載

ASTRA FOOD PLAN代表取締役社長 加納千裕 「かくれフードロス」をなくす

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