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週刊エコノミスト Online 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話

❻現代人に多い「歯ぎしり」と「嚙みしめ」 林裕之

 力学的に歯や歯茎にダメージを与え、虫歯や歯周病を誘発する。

>>連載〈歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話〉はこちら

 前回までに虫歯は虫歯菌、歯周病は歯周病菌が主因であると指摘してきました。予防もそれぞれの菌が潜む歯垢(しこう)除去が不可欠となります。歯と歯茎を磨き上げて菌を遠ざけるイメージです。しかし、それとは別に虫歯や歯周病の原因に「噛(か)み癖」があります。主に「歯ぎしり」と「噛みしめ(食いしばり)」です。菌とは違って力学的に歯や歯茎にダメージを与え、虫歯や歯周病を誘発します。

上下の歯の接触は1日20分

 歯の一番の役割は、食べ物を噛み砕き細かくすることです。そのため上下の歯が接している時間は長いと思われがちですが、実は1日当たり20分程度と、短いのです。食べ物を噛んだときに上下の歯が触れるのはほんの一瞬です。食べ物は上下の歯と歯の間で噛み潰します。この時には食べ物へ力を加えます。食べ物が潰れて上下の歯が接したらそれ以上の力は不要です。すぐに歯と歯を離して再度食べ物を潰すを繰り返し、細かくなったらのみ込みます。

 人間が発揮する最大の咀嚼(そしゃく)力は、その人の体重に匹敵するといわれるほど強靭(きょうじん)です。以前ボクシングのヘビー級タイトルマッチでマイク・タイソン選手が対戦相手の耳を2センチほど噛み切って反則負けしたことがありました。噛む力はそれほど強いのです。仮に食べ物を噛み砕いた後も強い力で噛み続けると歯や歯を支える歯茎にダメージを与えてしまいます。咀嚼はそうならないようにうまく制御されていますが、この強い力が直接歯に加わってしまうのが「歯ぎしり」や「噛みしめ」です。

 歯の表面を覆っているエナメル質は人体の中で一番硬くモース硬度は6~7。鉄(モース硬度4)より硬い組織です。歯ぎしりはこの硬いエナメル質同士をこすり合わせ互いの歯を傷つけすり減らします。エナメル質のダメージは虫歯を防ぐための再石灰化を阻害したり、歯垢が付きやすくなって虫歯の原因にもなります。時には歯にヒビが入ったり、割れたりする原因にもなります。こすり合わせることで歯を動揺させ歯を支える歯周組織にもダメージを与えます。歯ぎしりのある人は、本来とがっている犬歯が平らにすり減っていることが多いです。

 歯ぎしりは水平的な動きですが、噛みしめは上下方向に強い力が加わります。歯全体で噛みしめる場合と、特定の歯同士でぎゅっぎゅっと噛む場合があります。私も三十数年前は右の奥歯同士を噛みしめる癖がありました。噛み癖の弊害を知らず、頻繁にぎゅっぎゅっと噛みしめていました。

 噛みしめで不必要な強い力を受け続けた歯や歯茎は、抵抗力も免疫力も低下します。こうして弱った歯や歯茎が虫歯菌や歯周病菌の餌食となってしまうのです。私はこの癖で右奥の上下の歯を失いました。次号は歯ぎしりと噛みしめの是正法を紹介します。

 ■人物略歴

はやし・ひろゆき

 1956年東京都生まれ、歯科技工士。77年日本歯科大学付属歯科専門学校(現日本歯科大学東京短期大学)卒業。歯科技工所、歯科医院勤務を経て、歯科医師の弟(林晋哉)の林歯…

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