週刊エコノミスト Online 歯科技工士だから知っている「本当の歯」の話

❺歯周病はギネス認定世界最大の感染症 林裕之

 虫歯と並び歯を失う一大要因は、中高年ばかりか若年層でも増加傾向にある。その予防が重要だが、日本にはそれを阻む課題が少なくない。

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 歯を失う2大原因は虫歯と歯周病です。進行した虫歯は歯そのものを崩壊させて抜歯に至りますが、歯周病が進行すると歯を支える歯肉や歯槽骨の炎症で歯がグラグラになり抜歯に至ります。歯周病で抜けた歯は虫歯もなくきれいなままということもよくあります。年齢が上がるほど失う歯の本数は増えますが(65~74歳平均6本、75~84歳平均11.2本)、その原因の多くは歯周病です(厚生労働省「歯科疾患実態調査」〈2022年〉)。

 歯周病は歯肉炎と歯周炎の総称です。歯肉炎は歯肉だけの炎症で、治療により歯肉は元の状態に戻ります。歯周炎は歯肉炎が進行し、歯根膜や歯槽骨に及んだ状態で治癒しても歯肉は元には戻りません。初期にはこれといった症状がない場合が多く、腫れて痛みが出たときには進行して歯周炎になっているケースがほとんどです。

若年層に急増

 歯周炎を以前は歯槽膿漏(のうろう)といっていました。「歯を支える骨(歯槽骨)から膿が漏れ出る」ことなので、字面から症状が想像でき、その忌避感から予防や治療を促していいと思うのですが、ストレート過ぎて避けられたのでしょう。今は歯周炎となりました。

 歯周病は唾液による感染症と考えられており、世界中に蔓延(まんえん)している最大の感染症として、01年にギネス認定されたほどです。歯周病菌はキスや食事のシェアだけでなく、飛沫(ひまつ)感染するといわれていますので、感染を防ぐ手立てはありません。となると、感染しても発症させなければいいことになります。

 歯周病の大きな発症原因は、歯と歯茎の境目(歯周ポケット)に付いた歯垢(しこう)に潜んだ歯周病菌の出す毒素です。この毒素が歯肉の炎症を起こし、やがて歯周ポケットの奥深くまで侵襲します。ですので、虫歯同様に歯垢除去(プラークコントロール)が予防の基本となります。

 歯周ポケットは健康な人にも存在する歯と歯茎の境目にある溝で、1~2ミリ程度なら正常の範囲内ですが、4ミリを超えると病的な状態と診断されます。

 図2は05年から22年まで4ミリ以上の歯周ポケットがある人の割合です。特徴的なのは05年と11年と16年と22年をグループ化できることで、両者を境にどの年齢層でも増加しています。25歳以上の3人に1人、45歳以上の2人に1人は歯周病の歯がある状況です。

 気になるのは若年層(15~24歳)で歯周病が急増していることです。歯磨き習慣や学校歯科検診などで歯科受診機会も多いため、歯周病リスクが小さくなっているはずなのですが、不思議な現象です。そこで歯科疾患実態調査を実施した厚労省の担当課に照会してみました。16年から測定方法は同じだったのですが、記録方式が変更されたからではないかとのことでした。最新の調査でも全ての年齢層で増えていますので、若年層を含めた歯周病対策が急務です。

自分も歯周病で歯を失う

 私も歯周病で苦しみました。進行した歯周病…

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