客の声を聞き高機能と低価格を両立――小浜英之・ワークマン社長
ワークマン社長 小浜英之
こはま・ひでゆき
1969年生まれ。群馬県出身。利根沼田学校組合立利根商業高校卒業。90年高崎商科短期大学商学科を卒業し、ワークマンに入社。執行役員商品部長、取締役スーパーバイズ部長などを歴任。2019年から現職。54歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── 2024年3月期決算は、2期連続の減益となりました。
小浜 円安の為替相場の一方、商品価格を据え置いたため、2回目の2年連続減益となりました。価格の据え置きに対しては異論もあるかもしれませんが、私たちが目指す商品は「高機能で低価格」です。数字としては確かに減益ですが、価格を据え置くためには何をやるべきか、社員が集中して取り組んだことは今後のより良い商品開発につながると考えています。ただし、「3年連続の減益」は過去に例がありません。今期は増収増益を目指す方針です。
── その具体策は?
小浜 ワークマンというと「職人向け」のイメージが強いですが、2018年からはアウトドアやスポーツウエアなどを扱う店舗「ワークマンプラス」を展開しています。20年からは女性向けの店舗「#ワークマン女子」もオープンしました。「#ワークマン女子」の出店を進め、客層拡大を図ることで売り上げを増やす考えです。
── 客層拡大にかじを切った背景は?
小浜 少子高齢化で日本の人口が減り、技能を持った職人も減っている事情があります。チェーンストアは客数を増やすことが経営上、非常に重要です。そのためには客層を拡大する必要がありますが、地域のホームセンターなどとの差別化を図るため、自社開発のプライベートブランド(PB)商品を充実させるしかないと考えました。優れたPB商品があれば客はきっとリピートしてくれるし、その店の固定客になってくれるからです。客層拡大といっても、従来の「職人向け」を重視する姿勢は変わりません。ワークマンとして毎年、職人向けの新商品を100アイテムほど開発しています。私たちは職人さんや工場で働く人に育ててもらいました。職人にも認めてもらえる商品開発とサービスを今後も充実させます。
── ワークマンプラスでは、キャンプやアウトドアのウエアをPB商品化しました。
小浜 「今までにないもの」を作ることは簡単ではありません。これまでのような作業服を作っても差別化につながらず、社員とともにPB化の商品開発について模索を続けました。市場調査を続ける中で、アウトドアウエアの機能性を私たちが作っていた作業服に合体させられないかという発想に行き着きました。例えば、登山用のパンツなら違和感なく開脚できるように工夫されています。そうした長所を価格を上げずに作業服に組み込めないか考えました。この結果、今までの作業服を土台に、アウトドアの高機能性を盛り込んだ新しいPB商品を生み出すことができました。
── 顧客のニーズを店舗の品ぞろえにどう反映していますか。
小浜 初めての参入分野ではこれまでの勘や経験は通用しません。このため、売り上げなどに基づくデータ経営に徹しました。データを活用することによって、需要を予測することなどにつながります。もちろん多少ぶれることもありますが、データを積み重ねることによって、二度と失敗しない経営体質を目指しています。
── 「高機能」と「低価格」を両立する秘密は?
小浜 PB商品を作るのは工場であり、取引先やメーカーとの信頼関係を築いていくことが重要だと考えています。「信頼」といっても、1回の取引では得られません。積み重ねが大切だと思います。PB商品の製造では中国やベトナム、カンボジア、バングラデシュなどさまざまな国と関わりますが、人間関係が基本であることはどこも同じで、「うそをつかないこと」がその大前提になります。信頼関係を築くことで商品の品質が向上し、その評価が第三者に広がることでその工場も他からの仕事が入って収益が上がります。片方だけが栄えても長く続きません。共存共栄の精神が大切です。
台湾進出を視野に
── 今年春には、子ども服を扱う「ワークマンキッズ」も東京都内に出店し、6月にはランドセル市場にも参戦しました。
小浜 ワークマン女子は、お客さんの声を受けてスタートしましたが、「キッズ」も「(作業服のように)頑丈で撥水(はっすい)機能がある子ども服がほしい」との要望を受けてオープンさせました。私たちは「声のする方に、進化する」という方針を掲げています。この精神にのっとり、今後も優れた商品とサービスを提供していきます。
── 海外も含めた店舗展開は?
小浜 客層を拡大し、30年には万全な体制で1500店舗の達成を迎えたいと考えています。ただ目標達成ありきではありません。全ての業態で長期の成長ができるように目指します。2月には、台湾などアジアからのインバウンド客が多い沖縄県北中城村(きたなかぐすくそん)の商業施設にワークマン女子を出店しました。これを足がかりに台湾への出店を見据えています。
(構成=中西拓司・編集部)
横顔
Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか
A バイヤーとして全国を出張で駆け回っていました。移動の新幹線の中では「原価はどうすれば下がるか」などと考える日々でした。
Q 「好きな本」は
A 現在は西友社長を務める大久保恒夫さんの『すべては人なんだ』です。
Q 休日の過ごし方
A 釣りです。ワークマンでアウトドアウエアを扱うようになってからはトレッキングやキャンプも始めました。商品の使い勝手を自分でチェックしています。
事業内容:作業服やアウトドアウエアなどを販売する専門店をチェーン展開
本社所在地:群馬県伊勢崎市
設立:1979年11月
資本金:16億2200万円
従業員数:381人(2024年3月末、単体)
業績(24年3月期、単体)
売上高:1326億円
営業利益:231億円
週刊エコノミスト2024年7月9日号掲載
編集長インタビュー 小浜英之 ワークマン社長