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経済・企業 2024年の経営者

環境や健康に貢献できる商品づくり――福井正一・フジッコ社長

Photo 中村琢磨:東京都文京区音羽の同社東京FFセンターで
Photo 中村琢磨:東京都文京区音羽の同社東京FFセンターで

フジッコ社長 福井正一

ふくい・まさかず
 1962年神戸市出身。兵庫県立西宮北高校、中央大学理工学部卒。91年に東北大学大学院農学研究科修士課程を修了し、花王に入社。95年フジッコ入社。2000年常務取締役、02年専務取締役などを経て04年6月に社長就任。07年京都大学大学院にて博士(農学)取得。61歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 2020年ごろから“ニュー・フジッコ”を掲げ、商品の選択と集中を進めています。

福井 当社は売上高の9割を、商品全体の3割程度の品目で占めていました。そこでピーク時に450種類を超えていた商品のうち、利益率が低い43%を削減しました。ただし、主力商品の生産効率は高まったものの、(社全体としての)工場の生産設備はあまり縮小できませんでした。一方、工場で働く従業員の残業はかなり減りました。他にも、DX(デジタルトランスフォーメーション)化も兼ねた経費精算のシステム化、銀行口座のスリム化など手間のかかることは全て変えました。全部門で生産性向上を目指しました。

── 22年度からの中期経営計画は最終年度となりますが、併せて効果はいかがですか。

福井 エネルギー価格、原材料費や物流費の高騰は、中期経営計画の作成当時より想像以上に厳しい変化がありました。原材料の約25%が海外由来で、為替も大きく影響します。当初の営業利益目標42.5億円から、現在は20億円に修正しました。なんとか“ニュー・フジッコ”で強化してきた開発力と営業力、そして豆・昆布製品に改めて注力する「原点回帰」の施策で、24年3月期は売上高、営業利益ともに前年を上回りました。

── 各種の高騰が続く中、商品の値上げは避けられないですか。

福井 経営改革は続けていますが、社内でできるコストダウンだけでは全部を賄えない状況です。例えば当社の主力商品で使う国産昆布の生産量は毎年落ちています。全盛期は3万3000トンほどでしたが、今年は1万トンを割るとも言われています。3倍まではいかずとも価格が上がりました。商品では、家庭内で自ら料理をせずにすむ「即食タイプ」の商品のニーズが、(料理に一手間かける)加工食品に比べ増えてきました。即食タイプの商品は非常に利益率が低く、一方の加工食品は利益率が高いのです。当社は一昨年、昨年と、2回値上げをしました。ただ、(段階的に進めたので)個々の商品ごとにみれば、多くは1回だけです。通常、値上げ後は5〜10%の間で販売量的には落ち込みますが、当社の主力商品「ふじっ子煮」はおかげさまで数量が落ち込むことなく利益を確保できました。ですが、今年も値上げの検討はせざるを得ないと思っています。

── 売り上げ構成の半分は、豆・昆布製品が占めています。

福井 創業時の主力商品はとろろ昆布でした。10年ほどたって豆商品「おまめさん」を発売し、この二つの柱でやってきました。昨今は社会課題の解決も企業に求められていますが、当社で環境や人々の生活、健康に奉仕できるものは、昆布であり、豆であると考えています。例えば昆布は、地上の植物よりもはるかに多く二酸化炭素を吸収します。養殖技術を確立して昆布の森を作れるよう、北海道大学と共同研究をしています。川上から川下まで、環境や健康に貢献できる商品作りを目指します。

── 「カスピ海ヨーグルト」や「ナタデココ」など主力以外でもヒット商品を生み出してきました。

福井 ナタデココは、当社の女性社員がフィリピンに旅行で見つけたのをきっかけに商品開発が始まりました。良いものがあれば試す、現場の声をすくい上げる文化があると思います。当社の理念では人々を健康にする思いから「健康創造企業」を掲げています。1985年に社名を「富士昆布」から「フジッコ」にしました。デザートやフルーツなども扱い、昆布会社から総合食品会社へという意味も込めてカタカナにしました。理念の浸透を図り、私自身も全事業所を回って議論してきています。

海外展開では現地向けも

── 日本の家庭の食卓の変化や人口減少に危機感はありますか。

福井 だしの味付けや、豆の煮物など、日本人の舌はとても敏感で、繊細さは日本文化に共通すると思います。昔ながらの特質は子どもたちに引き継ぎたい。当社でできることは限られますが、食育にも力を入れています。例えば豆農家さんに協力してもらい、子どもたちに作付けや収穫、料理まで一貫した体験をしてもらうイベントを行っています。人口が減る中、売り上げの拡大は非常に難しいですが、良いものを提供すれば、食べ続けてもらえると思います。

── インバウンドへのアプローチや海外展開はどうですか。

福井 外国人観光客にはお土産として購入してもらっています。「おまめさん」シリーズの「丹波黒黒豆」は、シェフなど味覚の専門家が集まって目隠し方式で審査するInternational Taste Institute(国際味覚審査機構)で22年から3年連続で最も高い評価を得ました。もっと世界に広めたいと思っています。海外拠点は、東南アジアに絞っています。インドネシアには自社工場があり、現在は日本人向けスーパーへの流通のみですが、現地の方向けにも展開したいですね。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 「カスピ海ヨーグルト」の特徴である粘りが不足する事態が突然起こり、2015年に生産を一時休止しました。乳酸菌を扱うにはどうすべきなのか分かっていませんでした。大手乳業メーカーの品質管理の担当者を紹介してもらうなどし、指導を仰ぎました。

Q 「好きな本」は

A 歴史小説が好きで、特に新田次郎の『武田信玄』は印象深いです。

Q 休日の過ごし方

A 子どもと過ごしたり、昔のロックバンド仲間と再会し、ドラムをたたいたりしています。


事業内容:昆布や豆を柱とした各種食品の製造販売

本社所在地:神戸市中央区

創業:1960年11月

資本金:65億6653万円

従業員数:2364人(2024年3月末、連結)

業績(24年3月期、連結)

 売上高:557億1500万円

 営業利益:15億3000万円


週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載

編集長インタビュー 福井正一 フジッコ社長

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