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経済・企業 2024年の経営者

名古屋・栄での取り組みを全国へ――小野圭一・J.フロントリテイリング社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

J・フロントリテイリング社長 小野圭一

おの・けいいち
 1975年兵庫県出身。私立関西学院高等部卒業、98年関西学院大経済学部卒業、大丸(現大丸松坂屋百貨店)入社。2018年J.フロントリテイリング執行役。22年執行役常務。24年3月から現職。48歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 今年3月に48歳で社長に就任しました。

小野 若いことを割と肯定的に受け止めていただいていますが、経験不足という面はあると思います。ただ、中長期的な成長を目指すということにおいて、高齢の経営トップが進めるよりも信憑(しんぴょう)性を持ってメッセージを社内外に発信することはできるのかなと思っています。時間がかかる(人材の価値を引き出す)人的資本経営の実現も、腰を据えて取り組むことができると考えています。

── 2024年2月期連結決算では売上収益(売上高)が大きく伸び、営業利益も新型コロナウイルス禍前の水準を上回りました。

小野 前の中期経営計画は、コロナ禍からの完全復活、その後の再成長に向けた準備という位置づけでした。19年度の営業利益を23年度に上回ったことは非常にポジティブに受け止めています。原動力になったのは、コロナ禍で進めてきた仕掛けや投資です。限られた投資の枠内で、ラグジュアリーブランド、時計ブランドなどの改装を旗艦店を中心に進めてきました。インバウンド(訪日外国人)、富裕層という2大マーケットが想定以上に好調に推移する中、取り組みが花開いてきています。

 追い風はありがたいのですが、コロナ禍を機に会社自体を変革させるというところまでは行き着かないまま、状況が改善していることには危機感を抱いています。(コロナ禍で同様に苦しんだ)アパレル業界や外食業界は、費用圧縮、顧客との接点のデジタル化などの効率化を進め、好業績につなげている企業もあります。当社がそうしたことができなかったのは懸念材料として残っていると思いますので、業績が好調な間に将来に向けた種まきや準備を進められるかが重要になっています。

「ワクワク」消費に対応

── 決算と併せて発表した中期経営計画では国内外の「高質・高揚消費層」から支持されるということを目指す姿として示しました。どういうことでしょうか。

小野 高質・高揚消費層とは、自身の価値観やこだわりを大事にしていて、高質で心が高揚するような消費、体験を嗜好(しこう)する生活者というような定義をしています。消費の多様化が進み、従来のように年収に消費のスタイルを全てひも付けることは難しくなっています。本当に自分がこだわるところには徹底的にお金をかけたいという人もいます。人それぞれ、消費をする時に心動く、ワクワクするという消費の在り方は違うだろうと思っています。

 当社は、ラグジュアリーブランドや時計、アートなどに強みを持つ大丸松坂屋百貨店、エンターテインメントやカルチャーに特色を持つパルコを包含するグループです。互いの強みを生かすことを視野に入れ、成長を目指したストーリーを描きました。

── 中計ではグループの強みを融合する地域として名古屋市の栄地区を挙げていますね。

小野 当社は複数の屋号、店舗を展開するエリアが、北は札幌、南は福岡まで全国に7カ所あります。この中で今中計における最重点エリアを名古屋と位置づけています。26年には栄エリアに新商業施設をオープンさせます。それに合わせて松坂屋やパルコが強みをさらに出し、それぞれの戦略を掛け合わせていきたい。店舗改装や出店などハード面の取り組みだけではなく、販促の連携などソフト面の取り組みの掛け算も必要です。行政とも連携して、栄を活性化させていきます。名古屋の取り組みをモデルに全国に拡大させるというのが長期的な目標です。

── 足元ではインバウンド消費が勢いを増しています。

小野 4月の免税売り上げは過去最高になっています。かつて欧米からの訪日客は観光に終始し、あまり買い物はしていなかったのですが、為替(円安)の影響で高額のものを積極的に購入しています。一方、中国からの団体観光客はコロナ禍前の水準に戻っていませんが、富裕層を中心に個人の観光客は戻ってきており、購入単価が跳ね上がっています。

 インバウンド市場は為替や地政学などに左右され、操作できるものではありませんが、会員化などの形で顧客との関係を強める取り組みを進め、少しでも制御できるものにしようとしています。

── 外商も好調と聞きます。

小野 はい。原動力は若年富裕層の存在です。いわゆる“パワーカップル”の顧客が増えており、外商、また百貨店の顧客も30代、40代が増えています。1人当たり購入額も伸びています。グループには、複合商業施設「GINZA SIX」や渋谷パルコという顧客から強く支持される店舗がありますので、グループとして若年富裕層の取り込みができないか、模索しています。百貨店の外商の顧客が「GINZA SIX」で買い物をするとポイントが付与される取り組みを進めています。

(構成=安藤大介・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 人材派遣の子会社社長だった時にコロナ禍に。販売員など接客・接遇を担う人材派遣だったので、売り上げは一気に消失しました。「命が大事だから出社したくない」とスタッフから連絡を受けたこともあり、「会社は現場で支えられている」と痛感させられました。

Q 「好きな本」は

A ビジネス書の中神康議著『三位一体の経営』です。事業者、投資家のそれぞれの視点から経営が捉えられており、多くの気付きがありました。

Q 休日の過ごし方

A “下手の横好き”のゴルフです。将棋の対局アプリも楽しんでいます。


事業内容:百貨店業などを行う子会社やグループ会社の経営計画・管理など

本社所在地:東京都港区

設立:2007年

資本金:319億円

従業員数:5277人(24年2月末現在、連結)

業績(24年2月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:4070億円

 営業利益:430億円


週刊エコノミスト2024年6月11・18日合併号掲載

編集長インタビュー 小野圭一 J・フロントリテイリング社長

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