経済・企業 2024年の経営者

火災を早期に検知し安全を提供――岡村武士・能美防災社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

能美防災社長 岡村武士

おかむら・たけし
 1959年生まれ。兵庫県出身。東京都立鷺宮高校卒業。83年東京経済大学卒業後、能美防災入社。経営企画部門に携わる。2015年取締役、17年常務取締役、20年取締役専務執行役員を歴任し、21年から現職。64歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 火災報知機のシェアは?

岡村 自動火災報知設備では業界で3割強のシェアを維持しています。企業のオフィスや工場、住宅(戸建て・マンション)、映画館や劇場、道路のトンネルや船舶、さらに文化財など、全国のあらゆる施設に設置されています。例えば、横浜ランドマークタワー(横浜市)や福岡PayPayドーム(福岡市)、文化財では東大寺(奈良市)や全国の城郭などで、当社の設備が日夜働いています。最近は膨大な情報を処理するデータセンターやIT機器が集まるサーバールームなどの情報通信インフラ、半導体工場に設置されるクリーンルームなどでも導入が進んでいます。防災を通じて社会に安全・安心を提供していきます。

── データセンターなどの重要施設が火災でダウンすれば、世界中に影響が及びそうです。

岡村 そうした施設は、コンピューターなどの機器を冷やすエアコンなどの空調設備が設置されているため内部の気流は独特で、通常の火災探知機では煙をキャッチしにくいといった問題があります。そこで、微量の煙でも検知する超高感度システムを開発しました。火災の予兆を初期段階で発見できます。とはいっても、コンピューターが集まる施設にスプリンクラーで水をかけることはできません。データセンターなどでは窒素ガスの消火設備を使っています。

── クリーンルームの防災も手がけていることもあり、「半導体関連株」としても注目されます。

岡村 2023年は部品不足の影響で一部の製品に供給不足が生じました。一方で建築業界が非常に好調のため、市場の波にうまく乗っている感じはあります。今後も株価を意識した経営を心がけていきます。投資対象として魅力ある企業と感じてもらえるよう、ROE(株主資本利益率)の向上に全力で取り組みます。

原点は関東大震災

── 防災に取り組むようになったきっかけは?

岡村 もともとは大阪の商社でしたが、創業者が関東大震災(1923年)の惨状を目の当たりにしたことをきっかけに防災事業を起業しました。大震災では地震よりも火災で亡くなった人が多く、特に軍服を製造する被服廠(ひふくしょう)跡(現在の東京都墨田区)では避難していた約4万人が火災旋風などで亡くなりました。当時の日本の消防は火災が起こってしまってから火を消すという考え方が中心でしたが、創業者は社会の安全を守るためには火災の研究が必要と考え、自動火災報知設備の開発に取り組みました。

── エネルギー資源が化石燃料から水素などに置き換わると、防災のあり方も変わりそうです。

岡村 火災の起き方や広がり方、見つけ方などを研究するとともに、それを消す方法として水や泡、ガスのどれがいいのか、あるいはそれ以外の手段がいいのか──などを検討しなければなりません。火災を知ることが商品開発の原点になります。私たちは、防災のノウハウを長年にわたって蓄積するとともに研究施設や実験場も備えており、空間の構造や人の行動の変化に対応できる高品質な防災設備を提供できます。

── 環境面での取り組みは?

岡村 発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)を使わない泡消火薬剤を開発しました。PFASは、発泡や消火能力を上げるために必要な物質でしたが、国内外で規制が進んでいます。成分を全面的に見直し、PFASなしでも高い能力を維持する消火薬剤を作ることに成功しました。

── 1月の能登半島地震の被害をどうみていますか?

岡村 石川県輪島市では地震後に大規模な火災が発生しましたが、木造住宅密集地(木密)での火災リスクが改めてクローズアップされました。東京都や大阪府などでも木密エリアがあり、同様のリスクを抱えています。一方で、地域住民の理解を得た上で再開発を進めるのは難しく、木密エリアの解消には時間がかかります。そのため、住民の自助・共助を高め、火災を出さない、出させない仕組みを作ることが重要です。私たちが提供している「地域防災情報ネットワーク」は、警報器が火災を感知すれば関係者に連絡が配信されるシステムです。地域住民が連携を取り合う「共助」をバックアップできると考えています。

── 防災訓練も重要です。

岡村 企業や学校の訓練が形骸化しているとの指摘もあります。災害の危険性や怖さを「自分のこと」として捉えてもらう必要があると考えて、VR(仮想現実)で火災を体験する「火災臨場体験VR」というサービスも展開しています。VRゴーグルなどをレンタルするもので、火災や大地震が発生した際のオフィスビル内の混乱の様子をリアルに体験できます。こうしたサービスを通じて、地域住民の自助・共助を高める機運を作りたいと考えています。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 30代前半に企画部門に異動になり、トップの特命事項を担当するなど仕事が大きく変わりました。私のサラリーマン人生の中で大きな転機になりました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の『関ケ原』です。石田三成の志に魅了されています。

Q 休日の過ごし方

A なるべくウオーキングをするようにしています。最近は劇団四季のミュージカルを楽しんでいます。


事業内容:自動火災報知設備や消火設備など総合防災機器メーカー

本社所在地:東京都千代田区

創業:1916年

資本金:133億円

従業員数:2673人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:1055億円

 営業利益:88億円


週刊エコノミスト2024年5月14・21日合併号掲載

編集長インタビュー 岡村武士 能美防災社長

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