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経済・企業 2024年の経営者

「じゃがりこ」を世界に広げる――江原信・カルビー社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

カルビー社長 江原信

えはら・まこと
 1958年埼玉県出身。県立熊谷高校卒業。81年慶応義塾大学経済学部卒業、伊藤忠商事入社。2001年ジョンソン・エンド・ジョンソン入社。11年カルビー入社。子会社のジャパンフリトレー社長、カルビー副社長などを経て、23年4月から現職。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 昨年、社長兼CEO(最高経営責任者)に就任する直前の2月に中期経営計画を出しました。

江原 カルビーの業績は2016年ごろから停滞していました。一方で、株式市場の期待はとても高く、現実との乖離(かいり)が広がり、「ここでリセットをしないと、次の一歩を踏み出せないのでは」と考えました。伊藤秀二前社長から中計を考えるよう言われ、22年6月ごろから検討を進めてきました。

 出したのは「一旦、少しかがもう」というメッセージです。投資をしっかりとして、3年間でどのような成長を目指すのか、ということを発表しました。当時、株価は大きく下がりましたが、その後もIR(投資家向けの広報活動)などで丁寧に意図を説明しました。投資家からは「期待している」と言われるようになりました。

── 23年4~12月期の連結最終(当期)利益は過去最高でした。

江原 多分に追い風が吹いているというところがあります。他の食品、例えばインスタントラーメンなどと比較すると、スナック菓子の価格は高いものではありません。物価全体が上がっている中で、我々も値上げをしていますが、需要は比較的堅調です。追い風の下、足元を見て、構造改革を進めることができています。

商品ごとに「見える化」

── スナック菓子、シリアル食品の国内コア事業では、「量的拡大からの脱却」として商品数の見直しを進めると表明しています。

江原 1300という商品数(SKU)は食品メーカーの中でも非常に多いのですが、数を減らすということばかりが注目されてしまっています。他にも「ポテトチップス」などの商品群の利益は分かるが、各商品ごとの利益は見えていないという課題もありました。

 新商品を出せば、一時的に売り上げは作れるのですが、最後は処分販売になる商品もかなりありました。また原料とその産地にこだわり、コストがかかり過ぎていたり、物流費がかかり過ぎていたりということも見えてきました。近く物流費も含め、「見える化」できるようになります。効果は大きく、すでに赤字になる商品は出さないようにしています。

── 生産体制を見直し、次世代工場の建設も進めています。

江原 実は我々の生産体制は、かなり労働集約的です。天然のジャガイモを使っており、自動化できない部分が結構ありました。特にジャガイモの皮や形を含めて、チップスにした時にきれいになるようにする工程は、機械よりも手作業の方が速いという状態でした。今年度中にできる「せとうち広島工場」(広島市)では、革新的な工夫により自動化できるようになります。工場では人手不足も課題でしたが、省力化により、従業員1人当たりの労働生産性を約6割向上させることができます。

── 海外事業では北米や中国を中心に成長を目指すとしています。商品ですと「じゃがりこ」に力を入れていくそうですね。

江原 じゃがりこを海外に売るのが夢ですね。国内では売り上げ400億円という“お化け商品”で広く支持されていますが、海外では数億円しか売れていません。食感が若干堅く、海外では受け入れられないだろうという先入観がありました。ですが昨今ではアジア系の商品が北米などで受けるようになってきました。じゃがりこは会員制スーパーの「コストコ」に採用され、結構売れています。「独特の食感がいい」と言う人も出てきており、若い世代を中心に受け入れられると期待しています。

── 堅さは変えないのですね。

江原 そうですね。そこはじゃがりこの売りになっています。現在は輸出で対応していますが、しっかりと現地での生産体制を整えていきたいと考えています。米国が最大の候補地になります。

 じゃがりこは生のジャガイモがないと作れず、しかも生産に向いた品種という条件もあります。品種選定を含めると現地生産の開始には、それなりに時間がかかります。また、生産工程でロスも出やすいので、最初は経験のある日本人スタッフが入って指導をしないと難しいかなと考えています。

── 「新規領域」について、25年に売上高比率5%の目標を示していますね。

江原 売り上げに貢献できそうなのは、20年にグループに入ったサツマイモ専門の「カルビーかいつかスイートポテト」です。冷凍焼き芋の販売が非常に好調で、海外への輸出も始まります。

 また、我々が「B品」と呼ぶ形が良くないイモは、現在は二束三文で、BtoB(企業間取引)で飼料になったり、ペーストに加工されたりしていますが、自分たちで製品にできればと考えています。当社にはスナック菓子の知見があるので、既に直営店で真空フライ加工したスナックを出して好評を得ています。そうしたものを強化し、副産物でも利益がでる形にしていきたいと思っています。

(構成=安藤大介・編集部)


横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2011年にカルビーに入社し、ジャパンフリトレー社長を務めたことです。買収にともなう負の「のれん」が大きく、償却できるだけの利益が出せないという事態に初年度からぶつかりました。ポップコーンの認知度を上げる取り組みを進めるなど苦労しました。

Q 「好きな本」は

A 田中冬二の詩集です。古い日本のノスタルジーを感じさせてくれます。

Q 休日の過ごし方

A 料理です。豚バラのブロック肉を使い、1週間かけてベーコンを作ることもあります。自宅の土日の夕食は私が担当しています。


事業内容:菓子、食品の製造、販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:1949年4月

資本金:120億円

従業員数:4839人(2023年3月末現在、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:2793億円

 営業利益:222億円


週刊エコノミスト2024年4月9日号掲載

編集長インタビュー 江原信 カルビー社長

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