経済・企業2024年の経営者

引っ越し売上高首位、法人向け強化――田島哲康・サカイ引越センター社長

Photo 武市公孝:東京都港区の東日本本部で
Photo 武市公孝:東京都港区の東日本本部で

サカイ引越センター社長 田島哲康

たじま・てつやす
 1966年堺市出身。大阪府立東百舌鳥高校、奈良産業大学経済学部卒。91年サカイ引越センター入社。93年6月取締役、2000年10月常務取締役、08年6月副社長などを経て、11年6月より現職。57歳

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 引っ越し事業での売上高は10年連続業界1位です。好調な業績の背景には何がありますか。

田島 創業者が確立させたビジネスモデルを愚直にやってきた結果です。2021年度からの中期経営計画では、引っ越し事業の売上高1100億円を目標に掲げています。コロナ禍や物価上昇などピンチの連続ですが、当社グループ内での人員配置などを工夫し、20年度の888億円から22年度には947億円に伸ばしました。3、4月の繁忙期以外も注文が平均的に入る流れができ、年間の実施件数は80万件超ですが、注文自体は2倍強あります。目標は確実に達成できると思います。

── 国内の引っ越し需要は今後、どう変化するとみていますか。

田島 コロナ禍ではリモートワークが注目され需要は減るといわれましたが、出社に回帰する流れもあり、減少は限定的です。とはいえ働き方は変わり、転勤を希望しない人も増えました。当面、需要は横ばいとみています。ただし核家族化や、収納設備の充実などで運ぶ荷物は少なくなっています。人口減少もあり、長期的には緩やかに下がる可能性があります。

 それでも引っ越し自体はなくなりません。引っ越しを機に家財を一新する方も多く、家電販売や中古品買い取りなど「引っ越し周り」の市場は広げる余地があります。

── 引っ越しだけにとどまらないのですね。

田島 はい。ただし1社でできることは限界があります。サービスを一緒に取り組んでもらうパートナーを募集中です。全く違う業界の企業と手を組むことで、想像し得なかったサービスも生み出せたらと思っています。グループ全体の売上高の現目標は1400億円ですが、将来は2000億円まで高めたいと考えています。

── 文化庁をはじめ、病院や企業オフィスの移転、選挙事務所や投票所の設営撤去など、法人向けサービスにも力を入れています。

田島 引っ越し業は技術を売る仕事です。当社は専業ですので、大規模移転に堪えうる人材を擁しています。分譲マンションの一斉入居や、入院患者さんもいる病院の移転などは、綿密な計画が必要です。例えば東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション「晴海フラッグ」は5632戸ですが、引っ越しの幹事会社として養生からトラックの配置まで計画や管理は当社が行います。法人向けサービスは、売上高の半分くらいを占めており、今後も同程度で推移させていきます。

── 残業時間の上限規制が強化される「2024年問題」や賃上げなどへの対応はいかがですか。

田島 グループの成長に人材は欠かせません。10年以上前から採用と育成に力を入れてきました。23年9月時点で、ドライバーの平均残業時間を60時間台に抑えました。他方、全国の拠点網を駆使し、DX(デジタルトランスフォーメーション)化と業務効率化で経常利益率は11%に高められています。賃上げはドライバーが集まりにくい東京や大阪、名古屋など大都市で、昨年実施しました。

女性ドライバーも

── ドライバー向けの研修では女性講師もいるそうですね。

田島 女性ドライバーを、一過性にならずに増やしたいと考えています。現場を経験した女性に講師となってもらい、女性の視点で指導し、人材育成につなぐ仕組みが根付き、人材の定着につながっています。社会全体のドライバー不足は続きます。女性単身の引っ越しも多く、女性の活躍はますます必要です。普通免許で運転可能な、女性でも運転しやすいトラック(1トン)も導入しました。

── 能登半島地震では1月6日に支援物資を届けています。

田島 災害時の物資輸送に関して協定を締結する堺市からの依頼で実施しました。「社会に貢献し、社会に認められる会社だけが生き残れる」という考えを大切にしています。自治体などとの防災訓練に参加し、発災したその日のうちに対応できる体制を組んでいます。

 また、引っ越しという当社が持つ情報を活用し、人口の動態予測や過疎化などの社会課題の解決に役立てられればと、滋賀大学と共同研究も始めました。将来的には自治体も交えて官民のデータを使い、災害リスク低減やインフラ整備、脱炭素社会の実現に向けた分析に役立てたいと考えています。

── 成長を続けていく上で大切なことはなんですか。

田島 まずは人と人とのつながりです。社長室すらなく社内コミュニケーションを大切にしています。もう一つ、「世界一の新生活応援グループ」という世界展開の目標を掲げています。英仏にグループ会社がありますが、顕著な人口増加が見込まれるアジア圏への進出を視野に入れています。日本からの海外赴任者はもちろん、就労しに来る外国人の引っ越しも手伝い、アジア圏、ひいては世界規模での人材交流に貢献したいですね。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 単身赴任で駆けずり回っていました。関東はもちろん、東北や北海道、そして九州の進出などを手掛けました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の『国盗り物語』です。歴史の事例に学ぶというのが、私の考えです。初めてのことが多いのが事業です。歴史には事例が凝縮されており、予習ができます。

Q 休日の過ごし方

A 愛犬と遊び、癒やされています。


事業内容:引っ越し運送、引っ越し付帯サービス業

本社所在地:堺市

創業:1971年11月

資本金:47億3100万円

従業員数:6823人(2023年12月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:1095億5600万円

 営業利益:118億4500万円


週刊エコノミスト2024年3月19・26日合併号掲載

編集長インタビュー 田島哲康 サカイ引越センター社長

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事