コンサルやDX、企業変革の伴奏者――樺島弘明・エル・ティー・エス社長CEO
エル・ティー・エス社長CEO 樺島弘明
かばしま・ひろあき
1975年生まれ。聖光学院高校卒、慶応義塾大学経済学部卒。98年4月ING生命保険入社、ITベンチャー企業を経て2002年3月エル・ティー・エス設立に参加し取締役、同年12月社長。神奈川県出身。48歳。
Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)
── エル・ティー・エスとはどんな会社でしょうか。
樺島 主な事業は企業向けのコンサルティングです。2002年の設立当時、海外M&A(合併・買収)、グループ企業再編、大規模IT投資などをコンサル会社が支援しても、顧客側は競争力向上につながらず、手痛い目にあう事例が多く見受けられました。当社が目指したのは、30~40年かけてでも、日本国籍の良質なプロフェッショナルの会社を作ることでした。
── 企業支援の具体的な中身を教えてください。
樺島 顧客の成長支援の内容は、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と3段階を経て進化してきました。フェーズ1は、経営変革に焦点を当てた事業です。企業では、変革プロジェクトが多く立ち上がりますが、うまくいってないことが多い。要因は現場での展開です。現場が戦略や仕組みの内容を理解しないと効果が出ません。設立当初の7年間は、大規模な業務改革とか、M&A後の業務統合とか、ITプロジェクトとか、戦略の仕組み作り、経営変革の導入などに関する数百件の仕事をこなして専門性を磨きました。
その過程で、投資の費用対効果が悪いプロジェクトが多くて、しかも、ゴールを達成したのかどうか顧客側が理解していないことがありました。経営変革だけではなく、計画を作る段階から当社が支援しないと、本当の成長支援にならないことに気付いたのです。それがフェーズ2につながりました。当社は、顧客と一緒に変革を計画して、100億円のプロジェクトであればベンダーを選定して進めるし、数億円プロジェクトであれば、当社がまるごと支援します。その際の中心技術が、ビジネス・プロセス管理(BPM)や、組織や事業モデルを最適に設計するエンタープライズアーキテクチャー(EA)、ファシリテーション(業務遂行のかじ取り)などです。
── 顧客企業にはどんな効果が出たのでしょうか。
樺島 BPMでは、顧客企業の一つ一つの業務処理にどれだけの社員の時間が使われているのかを可視化します。すると、どこに効率化の余地があるのか、手法としてIT投資がいいのか、経営分析のアルゴリズムか、業務改善かなどが浮き彫りになります。
BPMを導入して変革と改善が浸透すると効果は鮮明です。新サービス立ち上げや、グループに新しい会社が加わった時に、事業がシンプルに動くようになるからです。この技術が日本で最も優れているのが当社の強みです。
── 現在は、「フェーズ3」に入ったのですね。
樺島 今の時代は、一つの変革を成功させても、次から次へと日常的にさまざまなテーマで変革に取り組む必要があります。変化に強い事業運営や組織をどう作るかが、顧客企業の経営の中心課題になったからです。顧客があるプロジェクトが成功したからといって、その後も当社が引いてはだめだと。当社の山本政樹執行役員の著書、『ビジネスアジリティ』(プレジデント社)に書いているような、変化に強い事業や組織をどう作るか。そのために必要な戦略コンサル、データ解析チーム、ITコンサル、エンジニアチームなど陣容を拡大して、現在は総合コンサルの方向に向かっています。
優秀な人材が経営の根幹
── 最近は地方自治体も顧客になっているようですね。
樺島 ITで武装していない中堅・中小企業や、地方自治体にどう支援を行うかについて、社員が手掛けたいと希望する声が上がっていました。そこで、広島県や静岡県において、産・官・学・金融が連携する枠組みを作って、点ではなく面で会社や産業を育成する取り組みをしています。
── 採用人数はどれくらいですか。離職率を抑える仕組みはどうでしょうか。
樺島 年間約130人で半分は新卒、半分はキャリア採用です。新卒は16年にわたり採用し続けているので、コンサル業界を受けるのなら、当社のインターンを経験せよとの評判もあります。優秀な人材確保で苦労していないことはないですが、特に問題なく採用はできています。離職率は6%程度です。当社ではBPMを軸に、新規事業開発や経営コンサル、ITコンサル、データやAIのエンジニア、M&Aの助言、ウェブ系やセキュリティー、基幹システムなどさまざまな専門サービスの人材がいます。転職しなくても当社の中で幅広い経験が積めるのです。
── 2030年に向けて売上高500億円(23年12月期で122億円)に引き上げる目標です。
樺島 健全な成長を目指す方針です。昨年老舗IT企業HCSホールディングス社を買収し、今後も年率15~20%程度の成長を継続して、途中でM&Aもあるでしょうから、目標は達成可能だと思います。利益水準や社員の報酬をセットで引き上げることを狙います。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまで仕事でピンチだったことは
A リーマン・ショック(2008年9月)です。新卒を初めて迎えたのが08年4月で09年に希望退職者募集をしました。大変でしたが鍛えられました。
Q 「好きな本」は
A 『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)と『代表的日本人』(内村鑑三著)。前者はブランド作りの参考に、後者は優れたリーダーの勉強になります。
Q 休日の過ごし方
A 高校2年の娘と中学1年の息子がいて休日はほとんど家族と過ごします。娘は一時期不登校に。夜の会食も制限して本人やカウンセラー、学校と向き合いました。
事業内容:経営コンサル、ITなど企業向け専門サービス
本社所在地:東京都港区
設立:2002年3月
資本金:7億4213万円
従業員数:1059人(23年12月末、連結)
業績(23年12月期、連結)
売上高:122億4200万円
営業利益:7億1700万円
週刊エコノミスト2024年4月2日号掲載
編集長インタビュー 樺島弘明 エル・ティー・エス社長CEO