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経済・企業 2024年の経営者

ハード機器×データで成長再起動――辻永順太・オムロン社長CEO

Photo 武市公孝:東京都港区の東京事務所で
Photo 武市公孝:東京都港区の東京事務所で

オムロン社長CEO 辻永順太

つじなが・じゅんた
 1966年生まれ。奈良県立北大和高校(現奈良北高校)卒業、京都産業大学理学部卒業。89年4月立石電機(現オムロン)入社。2017年4月執行役員、執行役員常務を経て23年4月から現職。奈良県出身。57歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── まもなく2024年3月期第3四半期(23年10~12月)決算の発表です。昨年10月末の第2四半期決算発表では、通期売上高見通しは前年比3%減の8500億円、営業利益は同55%減の450億円です。各事業でどんな課題が出てきたのですか(編集注:インタビュー後に通期見通しを売上高7.5%減8100億円、営業利益76%減240億円に下方修正)。

辻永 事業環境は厳しいです。設備投資関連の制御機器事業が苦戦しました。同事業は22年3月期、23年3月期と好調で、大きな市場のうねりもあり、その反動も来ていて、停滞している状況が続いています。回復にはもう少し時間が掛かると思っています。

 一方で、血圧計などのヘルスケアシステムと社会システムの事業は堅調に推移しています。特にヘルスケアは、コロナ禍で苦戦していた中国が、順調に戻っている好材料もあります。

── 制御機器事業(売り上げ構成比約48%)はどんな要因で苦戦したのですか。

辻永 半導体などデジタル社会に向かった産業と、電気自動車(EV)など環境対応自動車で一昨年度、昨年度に大きな設備投資がありましたが、今年度はかなり控えられています。設備投資は、当社のような関連産業に連鎖するので影響は避けられません。

 ただ、中長期的にみれば半導体も需要に対して足りませんし、気候変動問題への対応は始まったばかり。半導体は来年度後半から立ち上がるとみています。25年頭には回復するとみています。したがって制御機器事業は今後も成長を継続できると考えています。

インドで血圧計生産へ

── 世界シェア首位の血圧計の地域別販売動向はどうですか。

辻永 先進国では血圧を家庭で測る文化は定着していますし、当社の商品が評価を受けることで高いシェアを持っています。一方、新興国、特に中国やインドは、自宅で血圧を測る文化が普及期に入って、普及するにつれてマーケット自体が広がると期待しています。血圧を測るのは、心疾患や脳卒中などを事前防止するために健康を管理するのが狙いです。そうしたニーズにより応えていくために、血圧計と心電計を組み合わせた革新的な商品の発売も始めました。家庭で定量的に測ることを新たな家庭の文化に定着させることで、重症化予防に対しての貢献を高めていきたいと考えています。

── またインドで血圧計の生産(26年3月期操業開始予定)を始めますが、その狙いは。

辻永 インドには高血圧患者が多いため、自宅で血圧を測って健康管理するニーズは今後、広がるとみています。人口が多く、大きな市場の一つとして注目しており、当社では初となるインドでの生産工場を立ち上げて現地の需要を獲得するのが狙いです。

── 医療データベースを手掛けるJMDC社の買収を昨年9月に発表しました。総投資額2000億円と過去最大の買収案件です。

辻永 JMDCは、日本を中心に1500万近いレセプト(診療報酬明細書)、健康診断のデータ、病院への通院データを保有しています。このデータに、当社が持つ重症化予防のための事業を融合して、相乗効果を生み出すことが狙いの一つです。

 JMDCは、データを扱ってビジネスにする能力に長(た)けています。一方、当社は、制御機器や社会システム事業において現場のデータを数多く保有しています。JMDCが有する、データを価値やサービスに変える力を活用しながら、ファクトリーオートメーションや社会システムの領域でも、データビジネスを加速するのがもう一つの狙いです。

── 中期経営計画の目標で、25年3月期売上高9300億円、営業利益1200億円などを掲げています。達成はどうでしょうか。

辻永 23年3月期の初年度は非常によいスタートが切れたのですが、今年度(24年3月期)は第2四半期が終わった時点で業績を下方修正しました(編集注:第3四半期と合わせ2四半期連続で下方修正)。ですから、中期経営計画の達成は非常に厳しい状況になっているとみています。

 ただ、中長期的には成長領域に手を打っているので、着実に実を結ぶようにしたい。制御機器事業の設備投資需要が戻れば、新たな成長段階に入るとみています。

── 社長就任1年目で見えてきた課題や成果、2年目に注力することは何ですか。

辻永 私の経営スタイルは社員、現場との対話です。現場は社員だけでなく投資家、顧客、パートナーなどで対話を重ねる方針は変えません。例えば、ダイバーシティー(多様性)の取り組みは、米国では非常に進んでいますし、日本ではあまり進んでいません。私が気付き学ぶことで、日本や地域に展開することが基本のスタイルであり、継続したいと考えています。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30歳代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 35歳で営業から商品企画に移りました。事業戦略を考えることが好きになり、がむしゃらに仕事しました。

Q 「好きな本」は

A 堀場雅夫さん(堀場製作所創業者)の著書の『イヤならやめろ! 社員と会社の新しい関係』(日本経済新聞社)です。自省を促す良書です。当社創業者の立石一真による著書も読みます。

Q 休日の過ごし方

A ひたすら歩いています。多い時で10キロ以上歩くこともあります。できるだけ仕事のことを考えずに、リフレッシュするために歩きます。


事業内容:制御機器、医療器具、電機・電子部品などの製造販売

本社所在地:京都市

設立:1948年5月

資本金:641億円

従業員数:2万8034人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:8760億円

 営業利益:1006億円


週刊エコノミスト2024年3月5日号掲載

編集長インタビュー 辻永順太 オムロン社長CEO

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