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経済・企業 2024年の経営者

EC物流を成長の柱に――鎌田正彦・SBSホールディングス社長

Photo 中村琢磨:東京都新宿区で
Photo 中村琢磨:東京都新宿区で

SBSホールディングス社長 鎌田正彦

かまた・まさひこ
 1959年生まれ。宮崎県出身。同県立延岡高校卒業。79年佐川急便に運転手として入社。8年間の勤務を経て87年、前身の「関東即配」を設立する。2003年にジャスダック上場。12年に東証2部に上場し、13年に東証1部上場を果たす(現在はプライム市場)。64歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

>>連載「2024年の経営者」はこちら

── 野田瀬戸物流センター(仮称)が2月にオープンします。

鎌田 千葉県野田市に建設した地上4階建て、延べ床面積約4万坪の大規模物流施設です。このうち1万坪にはネット通販などの電子商取引(EC)に特化した専用フロアを設け、商品の保管から配送までをワンストップで提供するサービス「EC物流お任せくん」の拠点とします。荷物の搬送や仕分け作業に当たるロボットを導入し、物流の自動化を進めます。コストと人手を抑えつつ、拡大するECの配送ニーズを取り込んでいく考えです。アパレルを中心に、食品や化粧品など幅広いEC業者の利用を想定しています。

── アマゾンや楽天などのネット通販との違いは?

鎌田 大手ネット通販は巨額の設備投資をして自前で物流網を整備しており、たくさんのEC業者がこれらの通販サイトに出店して商品を委託販売しています。独自の物流網を持たない中小業者にとっては便利な半面、販売手数料がかかり、せっかく商品を売っても肝心の顧客データが提供されないといったデメリットがあります。私たちは、自社で商品を直接出荷し、顧客データを管理したいというEC業者のニーズに応えます。商品配送などを一括で引き受けるだけでなく、通販サイト作成用の撮影スタジオや返品された商品を補修する設備も導入します。

── 売り上げの見通しは?

鎌田 中小企業からは、大手通販サイトで出店しても手数料がかかり利益がでない、という声を聞きます。大手に頼ることなく、ネット通販に「自己完結」で取り組めるのが私たちのサービスの強みです。EC物流は今後、一つの産業として成長するとみており、同様のサービス事業を野田瀬戸物流センター以外にも展開する方針です。今後10年程度で1000億円程度の売り上げ規模を想定します。

── 中期経営計画で2025年度は5000億円、30年度は7000億円の売上高を目標に掲げました。

鎌田 円安で輸入価格が高騰しているため、国民の消費が動いていないと感じています。22年までは右肩上がりで来ましたが、23、24年は踏ん張りどころとみています。合併・買収(M&A)も見据え、目標の達成を目指します。

M&Aは心の融合

── 今後のM&Aの見通しは?

鎌田 03年の上場以降、M&Aで事業規模を拡大しました。さらに続ける方針です。私はもともと佐川急便のドライバーを8年務め、87年に「関東即配」を起業しました。当時はA地点からB地点まで荷物を運ぶ仕事でしたが、顧客からは倉庫内部の仕事も引き受けてほしい、など物流には多様なニーズと収益の可能性があると感じ、脱サラしました。ちなみに、そのころ使っていた「SBS(総合物流システム)」というロゴが社名の由来です。当時は小さいベンチャーでしたが、大企業と戦うには規模の拡大しかないと考え、上場してM&Aに取り組みました。物流の子会社を持つ大企業が多く、それらをM&Aで迎えれば「大きな塊」となると考えました。今は売り上げが5000億円規模となり、大企業の背中が見えてきました。1兆円も夢ではありません。

── M&A後は社員の融和や一体化が課題になります。

鎌田 M&Aは日本語では企業買収ですが、「買って収める」ことは簡単ではありません。「心と心の融和」と考え、本社は同じフロアに社員がごちゃ混ぜになって仕事をしています。上も下もなく、会社の垣根を越えた融合が必要だと考えています。M&Aで多くの企業を迎えましたが、リストラをしたことがありません。逆にM&Aの行き先としてもSBSが選ばれるようになったと感じています。多くの企業を傘下に収めつつ、これだけ人を大事にしている会社はないと自負します。

── 物流の24年問題の対応は?

鎌田 上場のころから労働基準法にのっとった経営を心がけており、24年問題は5年ほど前にはクリアしています。ただドライバーの残業時間が減るため、給料を引き上げなければなりません。一方、中小物流業者にとっては難しい対応が迫られます。24年問題が運送、物流業界の再編につながると考えています。

── 起業を目指す人へ助言は?

鎌田 現在は(新興企業に投資する)ベンチャーキャピタルがあり、アイデアがあれば若い人にも何十億円のお金がポンと集まります。でも「人のお金」のため、仕事に甘えが出ます。お金が集まった途端、豪華な事務所を構える人もいますが大抵うまくいきません。最初はマンションの一室でいいのです。自分の金で、会社と一体になって、会社が倒れたら自分も倒れるぐらいの覚悟で臨むべきです。財務の勉強も必要です。「諦めない。勝つまで続ける」という覚悟も大切です。ベンチャーをいかに育てるかが喫緊の課題です。

(構成=中西拓司・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A ピンチの連続でした。明日の資金繰りがつかず、実家の生命保険を解約してお金を工面したこともあります。M&Aで傘下に入った会社が、実際は大赤字で損失を出したこともあります。失敗の連続でしたが、その結果、会社は成長していくと考えています。

Q 「好きな本」は

A 最近は『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著)です。経営者の伝記をよく読みます。

Q 休日の過ごし方は

A ゴルフがない日は買い物やマッサージ、サウナに行きます。


事業内容:総合物流事業、物流支援事業、不動産事業

本社所在地:東京都新宿区

設立:1987年12月

資本金:39億2000万円

従業員数:2万2829人(2022年12月末、連結)

業績(22年12月期、連結)

 売上高:4554億円

 営業利益:218億円


週刊エコノミスト2024年1月23日・30日合併号掲載

編集長インタビュー 鎌田正彦 SBSホールディングス社長

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