週刊エコノミスト Online2023年の経営者

ビジネスの収益と社会性の両立を目指す――黒田武志・リネットジャパングループ社長

Photo 武市公孝:東京都港区の東京支社で
Photo 武市公孝:東京都港区の東京支社で

リネットジャパングループ社長 黒田武志

くろだ・たけし
 1965年大阪府出身。大阪府立生野高校卒業。89年大阪市立大学商学部卒業、トヨタ自動車入社。98年同社退社後、ブックオフウェーブを設立。2000年イーブックオフを設立し、05年ネットオフに社名変更。14年リネットジャパングループに社名変更し、現在に至る。58歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 起業の経緯は。

黒田 トヨタ自動車で新規事業に携わる機会があり、次は自分でも新規事業をやってみたいと思ったところ、中古本チェーンのブックオフの創業者の坂本孝さんが起業家を支援したいと語ったインタビュー記事をたまたま目にしました。それで坂本さんに会いに行って、ご縁ができて、週末はブックオフでアルバイトをすることになりました。10カ月続けた時に、坂本さんからバイトしている店舗をのれん分けしていただけることになり、トヨタを辞めて独立し、最初はブックオフのフランチャイズの加盟店としてスタートしました。

── 起業後の事業の変遷は。

黒田 これからはインターネットの時代が来ると思っていたので、インターネット上で本のディスカウントストアを作ろうと思っていました。そこで2年半ほど加盟店の経営をして土台ができたところで、2000年にインターネット事業を立ち上げました。ブックオフのインターネット版で、中古の本、CD、ゲームなどが中心ですが、これが今のリネットジャパンにつながっています。

── 現在主力となっているのは、パソコンなどのリサイクルですか。

黒田 リサイクルは不用になったパソコンや携帯電話をインターネットと宅配便を活用して回収し、パソコンなどに含まれているレアメタルを回収します。日本は資源がない国といわれていますが、これまで作りためたものが製品の中にストックされています。この製品に眠る資源を「都市鉱山」と呼んでいますが、例えば金については、世界一の南アフリカ共和国の埋蔵量よりも日本の都市鉱山のほうが多いといわれています。

── 回収の仕組みは。

黒田 もともと中古本のリユースのビジネスでは、仕入れは宅配便で本の買い取りをしており、この宅配の買い取りを活用します。ただしリサイクルでは無料で回収します。現在はパソコン回収の都市鉱山の事業が柱になっています。

── リサイクル事業参入のきっかけは。

黒田 大学の先生から都市鉱山が眠っているという話を聞く機会があり、宅配買い取りの発展形で、都市鉱山を掘り起こすアイデアを思いつきました。ちょうど13年に小型家電リサイクル法が施行されました。それで廃棄物事業をやっていない我々にも参入のチャンスが来ました。

── リサイクルでの強みは。

黒田 この事業は各家庭に分散している製品、資源を効率よく集めることが難しい。これにはインターネットと宅配便が非常に向いていて、ローコストで効率よく資源を回収できる仕組みを作ったことが我々の強みになっています。廃棄物の回収業者はB to Bのビジネスをしているのに対し、我々はエンドユーザー向けのB to Cのビジネスを展開してきました。日本中のお客様に広くリーチしているところが特長なので、その強みが生きていると思います。

 また、自治体と協定を結んで、リサイクルを推進していることも強みになっています。小型家電リサイクル法の主体は自治体になっています。そこで宅配でのパソコンの回収では自治体と連携して進めています。現在約640の自治体と協定を結んでいます。

障がい者福祉で成長

── 最近では障がい者福祉にも事業を広げています。

黒田 知的障がい者は健常者以上に一つの作業に集中するので、リサイクル事業のパソコンを分解する作業に向いています。当社のリサイクル事業では30人の障がい者が働いています。我々がリサイクル事業を伸ばすほど、現場で働く知的障がい者の雇用が増えていきます。そこで障がい者の方へ仕事だけでなく住居も提供しようということで、障がい者のグループホームを愛知県で設けました。さらに障がい者のグループホーム大手で全国に約1400拠点を展開するアニスピホールディングスを今年4月に子会社化し、業界一の規模の企業になりました。

 これまでは軽度の障がい者向けを中心に展開してきましたが、今後は医療的ケアが必要な重度の障がい者向けのグループホーム「リビット」を展開していきます。

── 多岐にわたる事業を展開する理由は。

黒田 我々の事業に共通しているのはビジネスを通じて社会課題を解決することです。創業の頃は純粋にビジネスをしていましたが、10年に「ビジネスを通じて“偉大な作品”を創る」という経営理念を掲げてからは、収益と社会性を両立したビジネスを展開しています。都市鉱山のリサイクルも障がい者福祉のように、一つの収益活動の中に社会貢献の要素を組み込むビジネスモデルにこだわっています。今後は小型家電リサイクル事業とソーシャルケア事業の二つが成長ドライバーになっていくと考えています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 32歳で起業し、いろいろな壁にぶつかりながら試行錯誤で経営をしていました。上場に向けて模索しながらも、ドットコムバブル崩壊やリーマン・ショックで、なかなか実現できず苦労が多かったです。その中で社会の意義などを考えるようになり、成長だけでなく収益と社会性を両立する今の経営理念にたどりつきました。

Q 「好きな本」は

A 私の経営のベースは稲盛和夫さんなので、稲盛さんの『生き方』は何度も読み返しています。

Q 休日の過ごし方は

A 趣味らしい趣味はないですが、ゴルフをやっています。


事業内容:リユース事業、小型家電リサイクル事業、ソーシャルケア事業、海外HR事業

本社所在地:名古屋市

設立:2000年7月

資本金:17億円(2023年9月末現在)

従業員数:1644人(23年4月1日現在、連結)

業績(23年9月期、連結)

 売上高:110億円

 営業利益:7300万円


週刊エコノミスト2023年12月5・12日合併号掲載

編集長インタビュー 黒田武志 リネットジャパングループ社長

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