経済・企業2023年の経営者

すしや丼、外食産業の自動化を推進――鈴木美奈子・鈴茂器工社長

Photo 武市公孝:東京都練馬区の東京事務所で
Photo 武市公孝:東京都練馬区の東京事務所で

鈴茂器工社長 鈴木美奈子

すずき・みなこ
 1961年生まれ。東京都出身。豊島岡女子学園高校卒業、83年日本女子体育短大卒。2003年鈴茂器工入社、04年取締役、16年副社長を経て17年6月から現職。62歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5月から「5類」に引き下げられました。インバウンド(訪日外国人旅行客)も復活して、街中の回転ずしもにぎわっています。すしロボットをはじめ米飯加工機を製造・販売する鈴茂器工への影響はどうですか。

鈴木 インバウンド回復は日本経済には追い風でしょう。他方で、外食産業では人手不足が解消されていません。国内外で省力化、省人化を進める機械を導入する事業者が増えています。当社は、従来、省力化のための機械を製造・販売しており、現状は当社の業況にもプラスに働いています。

── 鈴茂器工のすしロボットは国内外でシェア首位です。機械が握ったにぎりずしのシャリを、熟練の職人が握った食感に近づける工夫を重ねてきたと聞きます。

鈴木 当社は、1981年に世界で初めてすしロボットを開発・販売しており、42年の実績があります。初号機に比べると現行商品はサイズもコンパクトになり性能も向上しています。すしロボットにご飯をごそっと入れて、攪拌(かくはん)した上で定量を出してシャリに成形します。初号機に比べて現行機はコメ一粒一粒を生かしながら握るよう改良を施しました。「ふんわり感」に成形することを主眼に開発を進めてきました。

── 牛丼など丼物に米飯を盛り付ける機械にも注力しています。

鈴木 大手牛丼チェーンではもう人がごはんを盛り付けていません。すべて当社の「フワリカ」という盛り付け機がよそっています。コメ粒を切らずにふんわりと攪拌する当社の技術を生かして製品化したものです。回転ずしや丼物に加えて、スーパーなどの「中食」を含めると、当社の機械で作られた食品を召し上がった経験のある消費者は日本全体でみても相当の割合に達するでしょう。

── 人が盛り付けるよりも機械のほうがおいしくなりますか。

鈴木 牛丼や天丼などタレをごはんに染みこませる丼物をおいしくするには、コメとコメの間に空気を入れることがコツです。そうするとタレが浸透しやすいからです。人が盛り付けると、コメがギュッと圧縮されてしまうことがありタレが浸透しません。ふわりとよそうことができるよう当社の攪拌の技術が生かされています。

フードロス削減に貢献

── 海外でもすしロボットの需要が高まっていませんか。

鈴木 コロナ禍により多くの国でロックダウン(都市封鎖)が行われ、小売業や外食産業では雇用削減が相次ぎました。経済活動が再開されても、解雇した従業員は戻ってきません。したがって、省人化に対応する機械を導入する事業者が増えているのは海外でも同様です。一過性の現象ではないと考えており、新たな需要が創造されるでしょう。

 また、米飯の市場拡大が同時に進んでいます。アジアはコメが主食の地域ですが、米国はいろいろなものに興味を持つ人が多くて当初からすしロボットの需要がありました。欧州は、他の地域に比べると米飯加工機の需要は遅かったですけど、いまではすしだけでなく、おにぎりの専門店が出店するなど新しい傾向が顕在化しています。当社は現在、アジア、北米、欧州を中心に海外では80カ国以上の国と取引があります。

── 海外の納入先は日系企業が中心だと思いますが、外国の外食チェーン向けに拡大する考えは。

鈴木 海外企業との取引も既にあります。代表的な事例を挙げると米国のスーパーマーケットチェーンのウェグマンズ社です。店舗展開は東海岸に限定されますが、スーパー人気投票で毎年1位か2位に選ばれる人気店です。当社のすしロボットを全製品利用してもらっていて、各店舗にすしコーナーを設けてロボットが製造している様子を見せています。

── すしだけでなく米飯の盛り付け機の需要開拓はどうですか。

鈴木 フワリカは、丼物チェーン以外にも、定食やカレー、ラーメンなど米飯を出す店舗で設置が進んでいます。ホテルの朝食ビュッフェや社員食堂、空港ラウンジなどで利用が広がっています。盛り付け機はご飯の分量を選ぶことができるので、食べ残しが減ります。社員食堂のような大量の米飯を扱う場所で、従来に比べて10~20%程度フードロスを削減したという納入先の反響もあります。

── 省力化という観点での成長戦略は。

鈴木 2年前に日本システムプロジェクト(JSP)を子会社化しました。同社は、飲食店向けのPOSシステムや、セルフオーダーシステムの開発・販売を手掛け、近年は飲食店の客席フロアで使用する配膳ロボットを販売しています。調理場の省力化を進めてきた当社の機械と、店舗の効率化を行うJSPのシステムが融合することで、省人化やコスト削減のソリューションの提供を強化できると期待しています。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A 総合商社の防衛関連部署で働いていました。専門用語が飛び交う非日常的な空間でした。

Q 「好きな本」は

A 『決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか?』(三枝匡著、KADOKAWA)です。当社のイノベーション活動の参考にしています。

Q 休日の過ごし方

A 一昨年の春からゴルフを始めました。ビジネスではゴルフが身近だと実感します。


事業内容:米飯加工機の製造・販売など

本社所在地:東京都中野区

設立:1961年1月

資本金:11億5400万円

従業員数:479人(2023年3月末、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:134億5600万円

 営業利益:12億300万円


週刊エコノミスト2023年11月14日号掲載

編集長インタビュー 鈴木美奈子 鈴茂器工社長

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