週刊エコノミスト Online2023年の経営者

渋谷の開発を進め都市間競争を高める――西川弘典・東急不動産ホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で
Photo 武市公孝:東京都渋谷区の本社で

東急不動産ホールディングス社長 西川弘典

にしかわ・ひろのり
 1958年北海道出身。北海道立滝川高校卒業。82年慶応義塾大学経済学部卒業、東急不動産入社。東急不動産ホールディングス専務執行役員などを経て2020年から現職。64歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長) 

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 渋谷駅周辺のいろいろなところが工事中ですが、11月に竣工予定の「Shibuya Sakura Stage」の進捗(しんちょく)は。

西川 渋谷駅南西部に広がる約2.6ヘクタールの敷地を一体整備するプロジェクトで、オフィス、住居、商業施設の3棟構成になっています。お陰様で、オフィスは想定以上のスピードで契約が成立し、9割埋まっています。

── それだけオフィス需要は強いと。

西川 3年前の新型コロナウイルス禍(が始まった)時には、渋谷のデジタル関連の企業が一斉に出社を取りやめ、正直どうなることかと思いましたが、今は皆さん出社するようになっています。やはりオフィスはコミュニケーションの場であり、皆で議論しながら新しいものを作っていくと。そのために誰もが来たがるオフィスにしなければいけないというオフィスのニーズが出てきています。

── 渋谷の開発に関して、「広域渋谷圏構想」を進めています。

西川 もともと渋谷はわれわれのホームグラウンドであり、さまざまな拠点を渋谷に構えていました。その拠点をベースにいかに街づくりをするかを考えて、渋谷駅を中心とした半径2.5キロメートル圏内を「グレーター渋谷」として開発しています。具体的には、北は原宿、表参道、東は広尾、南は恵比寿、中目黒、西は駒場東大前までのエリアです。次の中期経営計画のテーマの一つは都市間競争力のある街づくりになると思っていますし、国際的な競争力のある都市環境整備を渋谷で実現します。

── 都市間競争はロンドンやニューヨークと競うと。

西川 グレーター渋谷にはそれを実現するだけの職・住・遊の資源がそろっています。職は、オフィスがデジタル系企業を中心に活況を呈しています。住は松濤や代官山、恵比寿。広尾は競争力のある住宅エリアだと思います。また、遊は外国人の方々が来て遊ぶ場所もあります。現時点でも高い競争力はありますが、今後は産業育成能力をつけていけば、グレーター渋谷の存在価値は相当上がっていきますし、東京にとっても渋谷は重要な資産になると思います。

 産業育成の観点では、スタートアップ系企業のエコシステム構築は産学連携が十分に取れる場所でなければ難しい。グレーター渋谷には東京大学駒場キャンパスがあり、東大の知を活用し産学連携を図っていきたいと思います。

── 今後の渋谷の街の在り方をどう考えていますか。

西川 個人的な意見になりますが、渋谷はよく言えば多様性、悪く言えば雑多性、猥雑(わいざつ)さがあり、そこをうまく残した街にできないかと思っています。私自身、学生時代に東急東横線沿線に住んでいて、渋谷は生活の一部でした。渋谷でよく酒を飲んでいましたが、みんなで騒いで飲む大衆店もあれば、しゃれたサラリーマンが集まる店もあったりして、その意味でも多様性を感じていました。

構造改革を一気に遂行

── 2023年4~6月期は2桁の増収増益でしたが、足元の業績をどう見ていますか。

西川 4~6月期は上ずれしすぎと思いますが、コロナ禍からのこの3年半は想定したよりも事業環境に恵まれたと思います。順調に業績を回復して、23年3月期は売上高で1兆円、営業利益で1000億円を超えることができましたが、事業環境のお陰だと思います。政策の恩恵もあり不動産価格が安定していたことが一番の要素ですし、海外からも含めて不動産への投資が活発で、不動産に関連する事業が好調でした。また訪日外国人客が昨年9月ごろから戻り始めたことも大きかったと思います。

── 経営ではROE(株主資本利益率)を重視しているとのことですが、その理由は。

西川 当社は同業他社と比べて借金が多くて資産回転率がそれほど高くない。そのため利益成長させながら増益による増配が株主に対する基本姿勢になります。その意味でROEが一番分かりやすい指標だと思っています。

── 東急ハンズをカインズに売却するなど構造改革を進めています。

西川 幅広い事業領域が当社グループの特徴だと思いますが、この特徴を強みに変えようというのが、社長就任時に打ち出したメッセージでした。しかしすべての事業が強い事業になるわけではない。金と人とノウハウには限界があります。限られたリソースを振り分ける優先順位を付けた時に後ろになる事業は、やれるところにやってもらうのが一番良いと。そうした再構築事業の一つがハンズでした。この3年間でポートフォリオの改革はほぼめどをつけることができたと思います。

 事業環境が良かったことで、いろいろな事業を売却しやすい状況でした。またコロナ禍で危機感があったことで、いろいろな改革を一気に実行できました。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスパーソンでしたか

A いわゆる昭和のビジネスマンで、結構遅くまで会社に残っていて、残業時間に明日の仕事のことをあれこれ考えていました。

Q 「好きな本」は

A 最近集中して読んだのは福岡伸一さんの『動的平衡』シリーズや『生物と無生物のあいだ』です。生と死について考える機会があって手に取りました。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフをする他は、ネットフリックスでドラマの配信を見ています。


事業内容:都市開発事業、戦略投資事業、管理運営事業、不動産流通事業

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2013年10月

資本金:775億円(23年3月末現在)

従業員数:2万1614人(23年3月末現在、連結)

業績(23年3月期、連結)

 売上高:1兆58億円

 営業利益:1104億円


週刊エコノミスト2023年10月10・17日合併号掲載

編集長インタビュー 西川弘典 東急不動産ホールディングス社長

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事